表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人の日々  作者: 昼の月
64/338

音を吸い込む布

町外れの染物工房を訪れたイルロは、入口近くの棚に畳まれた一枚の布に目を留めた。

 灰色がかった青色の厚手の布で、縁は丁寧にかがられている。

 しかし、触れた瞬間――驚くほど音が吸い込まれるように感じた。


 工房の女主人が説明してくれた。


「これはね、織り上げるときに糸をきつく締めすぎたせいで、布の中の隙間がほとんどないんです。

 だから風も音も、あまり通さない」


 この布はもともと舞台の背景幕として作られたが、音を遮りすぎて役に立たなかった。

 声や楽器の響きが布の前で急に弱まり、客席まで届かなくなるのだ。

 そこで舞台からは外され、工房の隅で眠っていたという。


 イルロは布を広げ、光に透かしてみた。

 本当に、ほとんど向こうが見えない。糸が重なり合い、表面には微かな凹凸がある。

 掌で叩くと、音は布の内側に吸い込まれ、空気が沈むような感覚があった。


「……これは、静けさを作る布ですね」


 イルロは女主人の許可を得て、その布の端に小さな印を縫い付けた。

 印の形は、波紋が消えていく様子を簡単な線で描いたものだ。

 これなら、布を広げた場所が“静けさの範囲”だとすぐにわかる。


 やがてその布は、近くの図書館に譲られることになった。

 窓際に垂らせば、外の喧騒がやわらぎ、本をめくる音さえ心地よく響くようになるだろう。


「音を消すのではなく、音の輪郭をやわらげる布。

 役に立たなかった場所を離れ、静けさを必要とする場所へ移る。

 それもまた、布の役目のひとつ。」


 イルロは記録帳にそう記し、布のスケッチと、その波紋の印を描き添えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ