橋に増える声
朝、橋の上に鳥の影が落ちていた。
まだ人は少ない。
だが、空気は軽い。
イルロが橋の木に触れると、
夜の冷えはほとんど残っていない。
「……夏が近いですね」
そこへ見回り役のノルが歩いてくる。
「朝の風も変わった」
*****
畑番のオルナは畝の端で土を崩している。
「乾くのが早い」
水路番のグラドが川を見ながら言う。
「水はまだ春だがな」
パン焼きのユルンが袋を抱えて橋を渡る。
「焼き場はもう夏だ」
*****
午前中、
仕事はいつものように早く終わる。
村は昼前には静かになる。
干し場ではイセラが布を揺らしている。
「今日は軽い」
「風か?」
ノルが聞く。
「空気」
*****
昼、
橋の上には誰もいない。
川の音だけが通る。
太陽は高く、
影は短い。
*****
午後、
少し涼しい風が戻る。
そして夕方。
最初に橋に来たのはユルンだった。
袋を置き、
橋の欄に腰をかける。
「やっぱりここだな」
*****
次にオルナとグラドが来る。
「また集まったな」
グラドが笑う。
「夕方はここだ」
オルナが言う。
そこへイセラが布を抱えてやってくる。
「今日はここで畳む」
*****
そのとき、
橋の向こうから小さな足音が聞こえる。
子どもたちだ。
二人、三人と橋を走って渡る。
「揺れる!」
「本当だ!」
ノルが笑う。
「走るな」
*****
子どもたちは橋の中央で立ち止まり、
川を覗き込む。
「水、冷たいかな」
グラドが答える。
「まだ冷たい」
ユルンが袋から小さなパンを取り出す。
「腹減ってるか」
子どもたちは目を輝かせる。
*****
橋の上は少し賑やかになる。
大人の声、
子どもの声、
川の音。
イセラが布を畳みながら言う。
「声が増えた」
オルナが頷く。
「夏が近い」
*****
夕日が橋を赤く染める。
子どもたちは帰り、
大人だけが残る。
ノルが橋を軽く踏む。
「揺れ、いいな」
グラドが笑う。
「声もな」
*****
イルロは橋の影を見ながら呟く。
「……橋が、
村の夕方を広げていますね」
通る場所だった橋は、
今では立ち止まる場所になった。
そして今日は、
声も増えた。
セレン村の初夏は、
夕方の橋を中心に、
人の輪を少しずつ大きくしていく。
明日もまた、
朝は静かで、
昼は暑く、
夕方に声が集まるだろう。
その声は、
きっと今日より少し多い。




