夕暮れの縁台
秋の日は短く、セレン村の空は早くも茜に染まっていた。
工房の前の縁台に、イルロは腰を下ろし、手を休めていた。
削った木片の香りが袖に残り、指先には今日の仕事の感触がまだ残っている。
そこへ、養蜂家のオルネが歩いてきた。
籠には蜂蜜壺がいくつも並んでいて、陽を受けて黄金色に光っている。
「イルロ、作業の合間にどうだ。温かい茶に甘さを足すと、身体がほぐれる」
そう言って一壺を差し出すと、イルロは静かに受け取り、頷いた。
二人で縁台に並ぶと、しばらくは村の夕暮れを眺めるだけの時間が流れた。
「今年は蜂もよく働いたよ。……けど、不思議なもんだな」
オルネが呟く。
「蜜を集めて巣に持ち帰る姿は、まるで俺たち村人そのものだ。
働いて、持ち寄って、分け合って……」
イルロは小さく笑い、壺の蓋を指先で撫でた。
「道具も同じです。壊れても繋ぎ直せば、また役目を果たせる。
人も暮らしも、それで保たれているのかもしれません」
オルネは深く頷き、目を細めた。
二人の間には言葉少なな静けさが漂い、やがて遠くで子どもたちの笑い声が響いた。
――秋の夕暮れは、働いた心を休めるためにある。
縁台に並ぶ影は、暮れゆく空に溶けていった。