薬草採りの籠
昼下がり、セレン村の道を歩いてきたのは、外の森からやって来た薬草採りの女だった。
背中には大きな籠を負っていたが、編み目がほつれ、草の束がこぼれ落ちていた。
「道具職人さん……よければ、この籠を見てもらえないかしら」
彼女の声は疲れていたが、どこか澄んだ響きを持っていた。
イルロは籠を受け取り、指で編み目をなぞった。
「藤が乾いて切れています。新しい枝を差し込めば、まだまだ使えます」
女は肩の荷を降ろし、腰を下ろした。
「私は森の奥で薬草を採って、旅の途中に村へ卸すの。
でも、この籠が壊れると、一度に運べる量が減ってしまってね」
イルロは静かに枝を編み込みながら尋ねた。
「森は遠いのですか」
「ええ。三日の道のり。でも、そこでしか育たない草があるの。……病の子を救える葉もね」
編み目が整い、籠はふたたび形を取り戻した。
イルロが差し出すと、女は手のひらで編み目を撫で、目を細めた。
「……軽くなったみたい。ありがとう、これでまた森へ行ける」
立ち上がると、籠の中の薬草が陽を受けて輝いていた。
イルロは黙って頷いた。
――村に届く草は、遠い森と、この手の仕事で結ばれている。
薬草採りの女は深々と頭を下げ、森の香りを残して去っていった。