緩んだ机脚
夕暮れの工房に、教師のラナがやってきた。
腕には、子どもたちが使っている木の机の脚を抱えている。
片方がぐらついていて、文字を書くたびに机全体が揺れてしまうのだという。
「イルロさん、授業のたびに子どもたちが笑い出してしまって……。
字が踊るからノートが読めないのよ」
ラナは苦笑しながら机脚を差し出した。
イルロは机脚を手に取り、接合部分を確かめた。
「木の支えが緩んでいます。楔を差し込み、脚を削って合わせ直せば安定します」
ラナは机にまつわる思い出を話し出した。
「この机は、村の皆で寄付して作ったものなの。子どもたちが初めて文字を覚えたのも、この上だったわ」
イルロは黙々と作業を進め、木槌で「こん」と音を響かせた。
ラナはその音に耳を澄ませ、静かに微笑んでいた。
やがて脚はしっかりと収まり、揺れなくなった。
イルロが試しに押すと、机はぴたりと安定したまま動かなかった。
「これならもう文字も乱れません」
ラナは嬉しそうに両手を合わせた。
「ありがとう、イルロさん。……これでまた子どもたちに、落ち着いて字を教えられるわ」
イルロは頷き、机脚を渡した。
――学びを支えるのもまた、暮らしの道具。
夕陽は工房を赤く染め、修繕を終えた木の机は、次の世代を静かに待っていた。