止まった水車
昼下がりのセレン村は、陽射しがやわらかく、川辺を渡る風が涼しかった。
しかし小川に設けられた小さな水車が、音もなく止まっていた。
木の羽根に藻が絡み、流れを受けられなくなっていたのだ。
水車小屋の主ユルドが、困った顔で川辺に立っていた。
「これでは粉を挽けん。水音ばかりで、歯車が動かんのだ」
そこへ通りかかったイルロが足を止め、水に手を浸して藻を探った。
羽根はまだ丈夫で、木の軸もしっかりしている。
「藻を削ぎ落とし、羽根を少し削って形を整えれば、また回ります」
川辺に膝をつき、イルロは小刀で藻を取り除いた。
削るたびに水がきらめき、冷たい飛沫が頬を打った。
ユルドはその様子を見ながら、静かに言った。
「水車が止まると、村の音まで止まったように感じるよ」
やがて最後の藻を落とし、イルロが羽根を整えると、水は再び力強く押し出した。
水車が「ごろり」と動き、やがて軽やかに回り始めた。
ユルドは安堵の笑みを浮かべ、手を合わせるように声を漏らした。
「ありがとう……これでまた粉が挽ける」
川のせせらぎに水車の音が重なり、辺りは再び生き生きとした調べに包まれた。
イルロは濡れた手を拭き取り、静かに水車を見上げた。
――暮らしの音は、止まっても人の手でまた動き出す。
午後の光に照らされながら、水車はゆるやかに川と共に回り続けていた。