表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人の日々  作者: 昼の月
114/157

止まった水車

昼下がりのセレン村は、陽射しがやわらかく、川辺を渡る風が涼しかった。

 しかし小川に設けられた小さな水車が、音もなく止まっていた。

 木の羽根に藻が絡み、流れを受けられなくなっていたのだ。


 水車小屋の主ユルドが、困った顔で川辺に立っていた。

「これでは粉を挽けん。水音ばかりで、歯車が動かんのだ」


 そこへ通りかかったイルロが足を止め、水に手を浸して藻を探った。

 羽根はまだ丈夫で、木の軸もしっかりしている。

「藻を削ぎ落とし、羽根を少し削って形を整えれば、また回ります」


 川辺に膝をつき、イルロは小刀で藻を取り除いた。

 削るたびに水がきらめき、冷たい飛沫が頬を打った。

 ユルドはその様子を見ながら、静かに言った。

「水車が止まると、村の音まで止まったように感じるよ」


 やがて最後の藻を落とし、イルロが羽根を整えると、水は再び力強く押し出した。

 水車が「ごろり」と動き、やがて軽やかに回り始めた。


 ユルドは安堵の笑みを浮かべ、手を合わせるように声を漏らした。

「ありがとう……これでまた粉が挽ける」


 川のせせらぎに水車の音が重なり、辺りは再び生き生きとした調べに包まれた。

 イルロは濡れた手を拭き取り、静かに水車を見上げた。


 ――暮らしの音は、止まっても人の手でまた動き出す。


 午後の光に照らされながら、水車はゆるやかに川と共に回り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ