沈んだ机の脚
朝の光が差し込むセレン村の学び小屋。
子どもたちが文字を習う長机の一つが、片側だけ傾いていた。
脚が土の床に沈み込み、板の上に置いた石板が滑り落ちそうになっていた。
「これじゃ字が書けないよ」
子どもたちの声に、教え役の婦人も困り顔だった。
ちょうど通りがかったイルロが呼ばれ、机を調べた。
脚そのものは無事だが、床が柔らかくなって穴を作っていた。
「脚を削り直す必要はありません。下に板を敷いて支えれば、また真っすぐになります」
イルロは工房から薄い板を持ってきて、脚の下に差し込んだ。
その間、子どもたちは息をのんで見守り、大人たちも手を貸して机を持ち上げた。
「どうだ、これで?」
婦人がそっと机に石板を置く。
今度はぐらつかず、板は安定していた。
「おお、書ける!」
子どもたちが歓声を上げた。
婦人はほっと息をつき、イルロに頭を下げた。
「ありがとう。これで授業を続けられるわ」
イルロは肩の土を払って、静かに頷いた。
――机ひとつがまっすぐになるだけで、学びの場も整う。
外では鳥が鳴き、子どもたちの声と重なって、セレン村の午前が穏やかに流れていった。