机の引き出し
祭りの音が過ぎ去った翌日のセレン村は、まるで深呼吸をしているかのように静かだった。
広場も畑道も、いつものざわめきを取り戻しつつある。
イルロは工房で、使い慣れた机の引き出しを引いた。
――「がたり」と嫌な音がして、途中で止まる。
中に詰め込んだ小物がつかえて、板が歪んでいた。
ちょうどそのとき、隣家のミレン老人が顔をのぞかせた。
「どうした、道具に負けてる顔をして」
「机の引き出しが引っかかるんです。毎日使ってるのに、急に重たくなって」
「年を取った家具は人と同じだ。気まぐれを起こす」
老人は笑い、杖に寄りかかった。
イルロは机を横倒しにし、底板を外した。
中から出てきたのは、木屑や乾いた布切れ、そしてすっかり丸くなった鉛筆。
「ずいぶん溜まってたな」
ミレンが目を丸くする。
「これでは板もずれて当然です」
イルロは板を削り直し、滑りをよくするために蝋を塗った。
引き出しを戻すと、音もなくすっと収まった。
「おお、見事に戻ったな」
老人はにこりと笑い、引き出しの中を覗き込んだ。
「机の中も人の心も、時々は片付けると軽くなるものだ」
イルロは小さくうなずき、机に手を置いた。
――道具も人も、静かに手をかければまた働き始める。
窓から差し込む陽射しの下、引き出しはすべらかに動き、工房には穏やかな時間が流れていた。