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神の贈り物  作者: 若君
7/9

第五話 人類第三の枷──意思

ノエル──

(男になってる!?)ミーアは目を見開き、ノエルの体に本来あるはずのないものを信じられない様子で見つめた。


「きゃああ!」ノエルは真っ白なトイレを慌てふためいて見つめる。


そう、彼が地球に現れてから、一度もトイレに行ったことがなかったのだ。


「とにかく、こうやって……」ミーアが仕方なくお手本を見せる。


この瞬間、ノエルの人生で初めての排泄体験となった。


──


「あひる……」ノエルは浴槽に浸かり、指先で浮かぶ黄色いアヒルをそっと弄ぶ。


「ノエル、ついでに髪も洗いましょう」ミーアはシャンプーキャップを持ち、水音を立てながら入ってくる。


いや、「ノール」と呼ぶべきだった……


ノエルがここに来てから、全てが複雑になっていた。


──


シャンプー中──


「動かないでね」


「うん、ミーア!」ノエルは楽しそうに返事し、目を輝かせる。


「ミリアって呼ぶんでしょ」ため息をつき、シャンプーを柔らかい髪に乗せる。


「な…ぜ?」首を傾げる。


「名前を変えたの。人の名前は変わるものよ」洗いながら説明する。


「ここではノールって呼ばれるの、わかる?」


「ノール…」小さな声で繰り返す。


「ノエル…じゃ…だめ?」寂しそうに胸の首飾りに触れる。突然現れた装飾品は、左手のブレスレットと共にはずせない。


「だめじゃないけど…」慌ててなだめる。


「どう説明すれば…ここでは本名を使わない方がいいの」


──


ノエルに何があったのか、なぜここに来たのか探ろうとした。


「イーサン…うそつき…」


「ノエル…ぞう…さくぶつ…じゃ…ない!」


ノエルはゆっくりとそう呟いた。


そして、先ほどの混乱が再び頭をよぎる──


(創造物か…)


軍は彼を創造物として扱ったのか、それとも機械のように無条件に従わせようとしたのか。


(軍の中では、どちらもあり得た…)


──


「ノールは今まで何をしてたの?」優しく尋ねる。


「くろい…もの…つくる…」ノエルは途切れがちに、暗い声で答える。


「他には?」泡を流しながら。


「ない…」瞼を伏せ、かすかな声。


「ノール?」確認するように呼びかける。


──


突然、ノエルの腕の中に軍の最新式ライフルが現れる。


「これ…もの?」無邪気にライフルをミーアに差し出す。


「待って、ここでそんなもの作らないで!」恐怖に震える声。


「消して!消せる?」


ノエルは不思議そうに腕の中のものを見つめ、黙ったまま。


──


「ミルク!」ノエルは手にした牛乳に目を輝かせる。


「ゆっくり飲んでね」テーブルに置かれた軍最新ライフルに目をやりながら。


(これはどうしよう…)


弾がなければ危険はないが、家に置いておくのは…


(飾っておくか…)壁にかけ、他の古い銃と並べる。


家には古い銃がいくつかコレクションされていた。


「これからはこんなもの作っちゃだめよ」片付けながらノエルに言う。


「でも…イーサンが…これだけ…と…」ノエルが言う。


(イーサン…聞いたことない名前だが、新しい指揮官か…)


「イーサンはここにいないし、関係ないでしょ」軽く言う。


「じゃあノエルは他のもの作っていい!」目を輝かせる。


「だめ」即答。


ノエルはがっかりして牛乳を握る。


──


ミーアは彼を見つめる。


「代わりに、本を読んであげる」


「ほん!」嬉しそうな表情。


ここは小児科医院なので、子供向けの本がたくさんある。


「ただし、約束よ。変なものを作らないこと」きつく言う。


「うん」楽しそうに返事。


──


軍を辞めた後、年金で田舎町に小児科医院を開いていた。


平和な日々が続くと思っていたが、ノエルが突然現れた。


「こうして、お姫様と王子様は幸せに暮らしました…おしまい」本を閉じる。


ノエルは彼女の腕の中。


「どうだった?」ノエルに聞く。


こんな童話、ノエルは好きだろうか…彼自身が童話の一部のような存在なのに。


「しあわせ…らく…」小さな声。


「そろそろ寝ましょう」と言う。


「もういっさつ」ノエルがせがむ。


「だめ、明日は早いの」ベッドに寝かせ、本をベッドサイドに置く。


彼女もノエルの横に寝る。


「おやすみ、ノエル」見つめる。


「おやすみ…ミ…リア…」まだ名前になじめない様子。


「うん」頭を撫で、抱きしめる。


──


朝。


「ノエル、起きて」優しく呼びかける。


「ミ…リア…」ゆっくり目を開け、目の前のミーアを見る。


「これから診察があるから、ノエルは部屋で一人で遊んでられる?」


昨日外に出したら、なぜか外せない装飾品が増えて戻ってきた…


「うん…」眠そうな返事。


──


「どうしたの、寝不足?」見つめる。


ノエルは本来眠る必要がない。


「夢を見た?」ノエルは夢を見るのだろうか?


首を横に振る。


「そうぞう…ところで…ずっと…」ノエルが言う。


夢は感情を解放する場所だと聞く。ノエルが眠るようになったのは、創造できないからか…


「しあわせ…らく…」嬉しそうに言う。


ミーアは静かに聞く。


──


「じゃあノエルは積み木で遊ぶ?」


そうは言っても、ここで色々作らせるわけにはいかない。


「つみき?」首を傾げる。


──


「ミリアおばさん、ノール今日は出ちゃだめなんだ…」でも今日も雨が降りそう。


リリーが部屋に入ってくる。


ミーアは隣の診察室で忙しかった。


「リリー!」ノエルは嬉しそうに近寄り、昨日転んだリリーの膝を見る。


「大丈夫、ノール」頭を撫でて安心させる。


「そんなに心配してくれるの?ほら、傷はもう治ってるよ」不気味なほどきれいに消えた傷跡を見せる。


「やっぱり昨日のは擦り傷程度だったんだ」家に帰ると母も、傷を一瞬で治す薬はないと言っていた。


ノエルは笑顔を見せる。


「ノール、今日は何して遊ぶ?」リリーが聞く。


「つみき…」床に散らばった積み木を見下ろす。


「積み木かー、もう飽きちゃったけど付き合ってあげる!」自信満々に宣言。


──


「見てて…ノール!」リリーは最後の積み木を、自分より高く積まれた塔の頂上に慎重に乗せる。


ノエルはじっと見つめ、彼女の指が積み木を離すと、塔がゆらりと揺れる。


そして「どさっ!」と崩れ落ちる。


「ごめん、ノール、大丈夫?」すぐに心配する。


「うん」平静な返事。


「ノール、積み木好きじゃないの?」不思議そうに聞く。初めて遊ぶと聞いていたが。


「みた…」少し躊躇いながら答える。


「誰かが遊んでるのを見た?」眉をひそめる。


「おおきい…はこ…つむ…」軍隊の物資運搬のような光景を説明しようとしている。


(引っ越し屋さんか…)リリーは納得したように頷く。


「それに比べたら積み木はつまらないよね」自嘲気味に笑う。


──


「別のことをしよう!」提案する。


「ノールは何が好き?」


「そうぞう…」目が輝く。


「創造か…」リリーは考え込む。


「でも…ミリア…だめ…」うつむく。


「確かに、私も家で行動芸術を飾ろうとしたら、母に理解されないことが多いよ」共感する表情。


「じゃあ、お絵描きしよう!」目を輝かせて提案。


「え…がき?」少し困惑した様子。


──


昼。


「部屋でどうやって遊んでるかな?」独り言をつぶやきながら部屋に向かう。


「月曜はいつも忙しい、午後の予約も入ってる」


ドアを開けると、部屋中に色とりどりの紙が散らばり、絵で床が埋め尽くされていた。


「あ、ミリアおばさん」リリーが這い上がり、興奮した様子で一枚の絵を渡す。


暗い背景に、緑の服を着た人々が黒い物体を手に、中央に向けている絵。


「ノールが昔あったことだって…」神秘的な口調。


「前世の記憶とか…?」真剣に考える。


「六歳までの子供は前世の記憶があるらしい(私はもう忘れたけど)」独り言。


ミーアはノエルを見る。彼は床に這いつくばり、周りを気にせず絵を描き続けている。


「ノール、だんだん上手くなってるよ」リリーは感嘆する。最初の絵とは比べ物にならない。


「でも、なんでこんなに暗い背景ばかり…?」不審そうに。


ミーアはさらに部屋に入る。


(昨日ノエルに聞けなかったことが…)床の絵を見下ろし、一枚に目が留まる。


緑の長髪の人物が、銀の首飾りをして立っている。


「まさか…?」心が動く。


他の絵も拾い上げる。


緑の長髪の人物が、黒い物体を持つ者たちの前に立つ。


赤髪の人物が現れ、緑の服の者たちが緑の長髪を連行しようとする。


一つの手がその服をつかみ、離したくないようだが、黒い物体がその手に撃たれる。


緑の服の者たちが後退し、黒い物体から何かが発射される。


そして…


──


ノエルは赤い絵の具を取ると、緑の髪のキャラクターにそっと塗り始める。


「ノール…」床のノエルを見下ろし、複雑な感情が湧く。


ノエルは涙目でこちらを見上げる。


「ノール、大丈夫?」リリーが駆け寄り心配する。


「どうして泣いてるの?」優しく涙を拭う。


──


突然、外で激しいノックの音。


「この時間に来るはずが…」何かを思い出し、急いで二人を抱き上げ、ノエルの描いた銃を掴む。


「隠れてて、絶対出てこないで、わかった?」地下室のドアへ急ぐ。


「これも、誰にも見せないで(隠してて)」銃と絵をリリーに渡す。


「どうしたの、ミリアおばさん?」銃を受け取り、混乱した表情。


「説明してる暇ない」ドアを閉める。


──


「一体何なの…」地下室で二人。


「大人はいつも説明せず、最後に子供のせいにする」不満そうに。


「ミリアおばさんはそうじゃないと思うけど…」独り言。


「お腹空いた…」時間を気にし始める。


「何か食べ物探そう、ノール」ノエルに向き直り、期待の眼差し。


ノエルはまだ心配そうにドアを見つめる。


「大丈夫、この町に悪い人なんていないよ」なだめる。


「いたとしても30年前で、私まだ生まれてない」付け加える。


「犯罪者はみんな送られて、二度と戻ってこないって」少し自信ありげ。


──


「よし、銃はここに隠せば大丈夫」小さな穴にしまう。


「ノールの絵は…?」少し迷う。


「本に挟んじゃえ~」適当に処理。


「ノール、見つけたクッキー食べよう」渡す。


──


「あのノック、ノールを探してる人?」クッキーを齧りながら外を見る。


「わたし…を?」ノエルもクッキーを口にし、まだ混乱している。


「だってミリアおばさん、絵を隠しなさいって」絵を見つめ。


「この黒いの、銃でしょ?」指さす。


「じゅう…?」近寄り、わからない様子。


「銃を知らないの?」首を傾げる。絵の物体は銃ではない?


「じゅう…」知識が浮かび上がる。


「すき…じゃない」つぶやく。


「私も嫌い~」話題を変えようと絵の他の部分を見る。


「緑の服、軍人みたい。この赤髪がリーダーかな」分析する。


「ミリアおばさん、昔軍人だったらしい」思い出しながら。


「で、この緑の長髪の…」赤く塗られた部分を見て、興味深そう。


──


「ノールはどこ?」辺りを見回す。


「ここ」自分を指さす。


「絵の中のノールの話」不思議そうに。


「絵にいない?それともテレビで見たの?」疑問だらけ。


ノエルはぽかんとする。


「ノール、自分を描かないの?」驚く。


「私なら真ん中に自分を描くけど…私の絵はあっちの部屋」残念そう。


「じぶん…どう…かく?」興味津々。


「ノール、自分の顔見たことないの?」目を丸くする。


首を横に振る。


「まじで!?」かなりの衝撃。


──


「はい」ミーアは冷静にドアを開ける。


スーツの男たちが立ちはだかる。


「失礼、ミーア・ハーパー大尉ですね?」威圧的な声。


「すみません、別人です」微笑み、ドアを閉めようとする。


──


「X-MD-C-PRIME-01A」赤髪の男が前に出る。


「軍の者だ」ミーアの前に立ち、鋭い視線。


「同行願う」冷たい声。


──


「どう、ノール、見えた?」リリーがノエルをおぶり、鏡の前へ。


ノエルは鏡に映る自分を見つめ、不思議な感覚に包まれる。


「うん…」考え込むように。


降りると、


「リリーと…ちがう」寂しそうにつぶやく。


「当たり前でしょ、双子でもない限り同じ顔はいない」笑う。


完全に同じでもないらしいけど。


「そろそろ出ようよ」少しイライラし始める。


「だめ…」首を振り、リリーの服を握る。


「ミリアが…」忠告を思い出す。


──


「ノール…」手を握り、優しく。


「子供は閉じ込められるものじゃないの。それに子供が大人の言うことを聞かないのは普通」


「大人は子供の言うこと聞く?」挑戦的。


「おあいこだよ!」笑顔。


「大人は子供を考えない生き物扱いする」不満気。


「考えてないのは大人の方」強めに。


「わかった?」励ますように。


ノエルは少し考え、頷く。


──


「よし、行こう」手を引く。


「でも…ミリア…」まだ心配そう。


「バレないように戻ればいいじゃん!」勝ち誇ったように裏口へ。


「裏庭に出られる。曇ってるね、うちに遊びに行こう」ウインク。


「行こう、ノール」手を差し出す。


ノエルは緊張しながらも、その手を握る。


──


「探せ!」黒服の男たちが家に突入。


「隅々まで!」部屋をくまなく探す。


「必ずこの家にいる!見つけ出せ!」ノエル体内にあるはずの追跡チップを手に。


──


「長官、裏庭にて……」


声が止まる。


「いえ、何も」


──


「1階ナシ」「2階ナシ」


報告が続く。


「地下室、確認済み」


「これは……」


「どうなってる!」怒声。


──


「チップはここ、間違いなくこの町に…」


「なぜ見つからん!」


「本気で探せ!」


──


ミーアは別の車に乗せられる。


「協力感謝する、ミーア・ハーパー大尉」向かいのイーサンがゆっくり口を開く。


「これは…どういう?」自宅を捜索する黒服たちを見ながら。


「軍の作戦、質問権はない」冷たく、無線の報告を聞く。


──


ミーアは彼を見る。


(赤髪…ノエルが嫌うイーサンか)


いや、今知りたいのは…


「ルーカス博士は?」緊張して聞く。


一瞬止まり、


「数日前に殉職した」彼は冷たい声で、無表情に告げた。


ミーアは目を見開き、少しして我に返る。


「そう…」平静な声。


──


「まさか…ノエルの仕業じゃないわよね?」車内は静まり返り、彼女は冷静を装いながら、内心は答えを待ち焦がれる。


突然、無線が入る。


「長官、構内外に目標の姿を確認できず…」


イーサンは眉をひそめ、無線を取る。


「ご苦労、撤収せよ」無感情な指示。


──


「では、協力感謝する。ミーア・ハーパー大尉」イーサンは車外に出て、手を差し伸べる。


ミーアはその手を取り、降り立つ。


「何かあれば、ルーカスの電話で連絡を」そう言い残し、軍用車へ歩み去る。


黒服の男たちは素早く撤収し、去っていった。


──


乱雑な自宅を見渡す。


「片付けないと…午後の診察に」ため息をつく。


いや、今すべきことは…


地下室へ駆け下り、ドアを開ける。


「いない…」ノエルもリリーもいない。


「連れ去られたのか…」不安が頭をよぎる。


──


突然、地下室の裏口が開き、リリーがこっそり顔を出す。


「ノール、静かにね。ミリアおばさんにバレちゃうから…」そして地下室に立つミーアに気づく。


「あ…」


──


「出かけたの?」厳しい視線。


「ええ…」リリーが答える。


「ノールにクレヨン持ってきてあげただけよ。雨も降ってなかったし」雷鳴が轟く。


「あああ!傘家に置いてきちゃった!」


──


「隠れててって言ったでしょ」


「ノール、ほらね。大人は子供の言うこと聞かないの」リリーは得意げ。


ノエルは深く頷く。


「私が質問してるの」ミーアがきっぱり。


「お腹空いてたの!」真剣な顔。


「クッキー一袋しかなくて!」


「ここじゃ餓死しちゃう!」


「そこまで…」呆れ返る。


「昼ごはんも食べずにずっとここにいたの!」リリーは抗議するように。


──


「でも家に食べ物を取りにいったんじゃないの?」クレヨンを見ながら。


「あ、それね。ママがちょうど昼ごはん作ってたから、ノールと一緒に食べてきた」


「ママも食べて行きなさいって」


「ミリアおばさんの家の周りに変な黒服がウロウロしてるから、カーテン閉めてたよ」


「見られなかった?」心配そうに。


(危ないところだったわ…)


──


「いえ、見られました」リリーが言う。


(見られた!?)


「でもノールが突然前に出て、ジーッと睨みつけたの」


「そしたら相手は胸の何かに『異常なし』って言って、スルーされちゃった」


「優しい人だったね。でも何探してたんだろう?」


「ノールさっきかっこよかったよ」頭を撫でる。


──


ノックの音。


「また誰か来たの?」リリーが小声で。


そんなに黒服がいるの?隠れる?


「そんなはず…」冷静に。


「もしかして予約の患者さん!?」急いでドアへ。


「はい」ドアを開ける。


黒服の男が立っている。


「あの…」緊張する。


「これは軍召集令状。明日朝8時にお迎えに参ります。失礼」敬礼し、去る。


「待って、明日は患者さんが…」茫然と手紙を握る。


「どうしよう…」混乱する。


──


「イーサン大佐、町全体を捜索させますか?」指揮官が緊張して尋ねる。


「必要ない」冷たい返答。


「しかしチップの反応はこの町で確認されています」不安そうに付け加える。


「なぜ体外に出た?」


「誰かが摘出したのか?」


「この町以外に手がかりも…」


「しかし大佐、どうしてこの町と?」


無言の圧力。指揮官の額に汗。


「裏庭を担当した兵を呼べ」冷徹な声。


「か、承知しました」


「急げ!」怒鳴る。


「はい!」


「しかしあの女の家でも異常なし。生身の人間を隠すのは…」


イーサンは無言。冷たい視線。


「長官、連れてまいりました」


「本当に誰も見ていないのか?」鋭い眼光。


「はい、長官」直立不動。指先が微かに震える。


「そうか」疑念を滲ませる。


「胸部カメラの映像を映せ」


「承知」迷いなく操作する。


「兵士を疑ってるのか?」小声で。無視される。


「長官、接続完了」


「再生」


画面に映る光景。


「これは…」少女の姿。


「ありえない!」担当兵士が絶叫。


「長官、後方に…」ノエルが少女の前に立ちはだかる映像。


「…異常なし」平然とした声。


「え…?」困惑する少女。ノエルに手を引かれ去る。


停止。


「お前、隠蔽か!」指揮官が激怒。


「いえ!神に誓って誰も!」必死に弁明。


「この計画の重要度がわかってるのか!」


「誰の指示だ!」


「退け」冷たい声。


「長官、本当に…」


「ご苦労、ジェイソン・ミラー中尉」


「…失礼します」


「すぐ引き返して逮捕を!」


「必要ない」


「しかし上層部の命令では…」


「手段はある」


──


「ありがとう、ミリア先生」母親が子供を連れて去る。


「お薬忘れずに」手を振る。


「これで午後の予約終わり…」ため息。


しかし…


「患者さんいないの?」リリーが診察室から覗く。


「ノール、ここがミリアおばさんの仕事場だよ」興奮して案内する。


「へえ~」ノエルは好奇心いっぱいの目。


「いつもより散らかってるけど」わざとらしく。


「診察室に勝手に入っちゃだめ」睨む。


「これから往診(出かける)」。軍隊の召集令が頭をよぎる。明日明後日の患者を今日中に…


「あなたたち…」不安げに見る。


「じゃあノールはうちで遊ぼう」リリーが提案。


「だめ」(捜索が入れば迷惑がかかる…)


でも二人をここに残せば、軍が押し寄せるかも…


(しかし軍はもうノエルの居場所を…)


地下室の銃(ノエル作成)も見つからず、リリーの話も…本当に気づいているのか?


(この突然の召集は…)


診察カバンを持ち、深く息を吸う。


(仕方ない…)


──


「目標、外出」無線が入る。


「よし、捕まえ…」指揮官が指示する前に。


「勝手な行動を禁ずる」イーサンの冷たい声。


「くそ…(小声)…監視を続けろ」不満そうに。


イーサンは屋上で双眼鏡を構える。


「私さえも遮断するとは…」呟く。


「何か?」指揮官が聞き返す。


「何でもない」高台から降り、双眼鏡を投げ渡す。


「命令があるまで接近するな」冷たく言い残し、去る。


──


イーサンがいなくなると、指揮官はぶつくさ言う。「こんな好機を…」双眼鏡でノエルの姿を凝視。


「目の前にいるのに…」


──


「どこ行くの?」リリーがノエルの手を引き、後ろからついてくる。


「グラント夫妻のお宅へ、それからウォーカーの容態を…」メモを見ながら。


「え、ウォーカーが病気?この前まで元気だったのに」嫌そうな顔。「私に泥投げつけてきたのよ、嫌な子」


「それから…今日は遅くなりそう」


「ノール大丈夫?」振り返る。


ノエルは小さく頷く。


「帽子ちゃんとかぶってね」目立つ白髪を隠す毛糸の帽子を調整する。


「ノールは体が弱いから、何かあったらすぐ言ってね」リリーが帽子を直す。


再び頷く。


──


「わざわざすみません、ミリア先生」グラント夫人が迎える。


「大丈夫です。ご主人の具合は?」


「だいぶ良くなりました。今朝こっそり酒を…でも予約は明日では?」


「急用ができまして…」苦笑い。


──


「退役したのに召集令状とは」夫人がクッキーを運ぶ。


「新聞では軍の勝ち戦ばかり。人手不足かしら?」ご主人がソファで。「新型兵器もたくさん使ったらしい」


「あなたも呼び出されないかしら?」心配そうにノエルたちにクッキーを勧める。


「大丈夫、もうこんな年だ」苦笑。「行ったって足手まといさ」


「この体じゃね」ため息。


「お酒控えれば長生きできますよ」診察しながら。


──


「どうぞ、クッキー食べて。ジュースもいる?」


「リリーちゃんと…」ノエルを見る。「初めてのお子さんね」


「親戚の子で、ノールっていうの。療養で来てるの」慌てて説明。


──


「まあ、可愛いお子さん!」感嘆する。


「天使のよう」


「てん…し?」首を傾げる。


「ノールは私と結婚するんだから」リリーが宣言。


「けっ…こん?」不思議そう。


「あら、素敵ね」


──


「でも明日から軍隊復帰で、この子はどうするの?」心配そうに。


「それは…」手が止まる。(軍はノエルの存在に気づいているはず…)(この召集は何?)(ノエルを連れてこいということ?)ノエルの絵を思い出す。


「ノールはうちにいればいいよ」リリーが提案。


「どう、ノール?」期待の眼差し。


「ミリア…いっしょ?」俯く。


「ミリアおばさんは行っちゃうの」


「ノールと私でいいじゃん!」


──


「いや…」小さな声。


「ミリア…いっしょ…いかないで…」切ない声に一同が胸を打たれる。


「困ったわね」


「ええ…」


「夜ゆっくり話します…」


──


「これで最後」夕暮れの町を歩く。


「予約患者は全部診終わった」疲れた声。


「リリー寝ちゃったわね」夫人がソファで眠るリリーを見る。


リリーは丸くなって眠り、ノエルは静かに座っている。


「ここで寝かせましょうか?空いてる部屋が」


「大丈夫」優しく抱き上げる。


「お家まで送ります」


「ノール、カバン持ってくれる?」ノエルは頷き、カバンを持つ。


──


静かな夜道。足音が響く。


「ノール…ノエル、帰りたい?」前を見据えたまま。


ノエルは黙って歩く。


「明日から軍に戻るの。命令だから」重苦しい声。


「あの部屋に」


「どうやって出てきたのか…」


「私たちはもう会えないはずだった」


「私のせいで見つかった」


「電話したから」


「ここで見つけた時、通報すべきだった」


でもしなかった。なぜ?ノエルがあの部屋で幸せじゃないと知ってたから。


「ノエルはどうしたい?」


立ち止まり、振り向く。月明かりが優しく照らす。


「ミーア…いかないで…」震える声。


「ここで…いっしょ」


「無理よ、ノエル」目を閉じる。


「国に、軍に従うの」


「私の選んだ道」


ノエルはじっと見つめ、突然右手の手首が光り始める。


暗闇で微かに輝く。


「それは…」目を見開く。


銀のブレスレットが浮かび上がる。


──第三の枷・意思──

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