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アーロンの思い出

この話に出て来る医療の知識は、あくまで異世界のものです。皆様は、現実の医療の常識に従って行動して下さい。

あと、医師など医療従事者のいう事に従って下さい。

「おい、アーロン、準備できたのか?」

 ある日の朝、王城にある一室のドアをブレットがノックした。ここは、アーロンに与えられた部屋である。

「はい、準備出来ました」

 そう言って、アーロンはドアを開けた。ブレットは、アーロンの姿をじっと見つめた。整った黒髪、清潔で上等な紺色の礼服。王族に相応しい格好だ。

「……似合ってるじゃないか」

 ブレットは、穏やかな笑顔でそう言った。

「ブレット様の青い礼服も良く似合っていらっしゃいますよ」

「ありがとう。……そろそろ行くか」

「はい」

 

 廊下を歩きながら、ブレットが言った。

「……なあ、アーロン。お前、本当にいいのか?」

「え?」

「……お前、ステイシーの事好きだったろう?見てれば分かるんだよ」

「……大丈夫です」

 ブレットが心配するのも無理はない、今日は、ステイシーとセオドアの結婚式なのだ。

「俺は、ちゃんとお嬢様の幸せを願う事が出来ます。その幸せが、例えセオドア殿下との結婚であっても」

 アーロンは、ステイシーの幸せを願うと決めている。ステイシーと初めて会ったあの日から。


 アーロンがまだ十二歳だった頃。彼がいる孤児院は、経済的な余裕がなく困っていた。ある日の朝、アーロンが孤児院の廊下を歩いていると、玄関の方から声が聞こえた。

「だから、借金を返せと言ってるんだ!」

「すみません、もう少し待って下さい……」


 見ると、三十代くらいの男が院長に詰め寄っている。商人のような恰好をしているが、髭を伸ばしたり服を着崩しているので、ガラが悪く見える。それに対して院長は五十代くらいの女性で、小柄な事もあり男に圧倒されている。

 アーロンが物心ついた時から、院長には世話になっている。アーロンは、思わず駆け出していた。

「先生を虐めるな!!」

 院長は、慌てた様子で言った。

「アーロン、中に入っていなさい!」

「嫌だ!」

 アーロンは、院長と男の間に割って入ると続けて言った。

「お兄さん、先生を虐めないで!先生は身体が弱いんだ!!」

「ん?何だお前。ここで暮らしてるガキか?」


 男は、しばらくアーロンを見つめていたが、やがてニヤリと笑った。

「お前、よく見ると顔立ちが良いな。労働力としてだけでなく、雇い主の目を楽しませる事も出来そうだ。お前、俺と一緒に来い。俺の言う事を聞いて働けば、借金の返済を待ってやってもいい」

 男がアーロンの腕を掴むと、院長が叫んだ。

「駄目!その子を連れて行かないで」

「あんたにそんな事言う権利あるのか?」


 院長は男からアーロンを引き離すと、急にその場に蹲った。

「……うっ……!」

「先生!」

 アーロンが院長の体に手を添える。

「お、おい、どうしたんだ?」

 男も困惑している。

「先生には心臓の病気があるんだ!すぐに病院に連れて行かないと」

「ええ?……ったく、しょうがねえな。借金を返してもらわないと困るし、近くにある治療院まで連れて行ってやるよ」

 こうして、アーロンと男は院長を連れて治療院へと向かった。


「ああっ?……何だよ、臨時休業って……」

 治療院の前で、男は茫然とした様子で言った。治療院の入り口に、『本日臨時休業』と書かれた紙が貼ってあったのだ。

「他の治療院を探さないと……」

 アーロンが焦りながら言う。

「俺はこの辺りに土地勘なんて無いぞ、どうするんだ!?」

「そんなのこっちが聞きたいよ!!」


 二人が言い合っていると、不意に後ろから声を掛けられた。

「あのー、どうなさいました?」

 振り向くと、そこには十代後半と思われる少女が佇んでいた。金色の髪に青い瞳が魅力的だ。

「この女が具合悪そうなんだよ。心臓の病気があるとかで。でも、この治療院が休みで困ってたんだ」

 男が、アーロンに背中をさすられている院長を見ながら言った。

「まあ……そう言えばモーガン先生は今日お休みだったわね。他の治療院まで案内します」

「でも……その治療院まで先生が持つかどうか……」

 アーロンが不安そうにつぶやく。

「うーん……先生は、発作が起きた時に飲む薬は持っていないんですか?」

「ああ、そう言えば持ってた。……先生、今その薬ある?」


 アーロンが聞くと、院長は苦し気ながらも答えた。

「……舌下錠っていう種類の薬を持っているけど……その薬、二時間くらい前にも使ったの。今も使って良いのか分からなくて……」

「その薬の名前は分かりますか?」

 少女が聞くと、院長は薬の名前を言った。

「成程。その薬、使っていいかどうか聞いてきます。この近くに薬局があって、私、その薬局で修業させてもらっているんです」

 そう言って、少女は走り出した。


「お待たせしましたー!!」

 しばらくして、少女はアーロン達の元に戻って来た。

「聞いてきました。発作の薬、使っても良いそうです!」

 走って来たからか、少女は息を切らしながら言う。

「良かった……先生、薬、使って下さい」

「……ええ……」

 アーロンに促され、院長はポケットから取り出し、口に入れた。しばらくすると、院長の症状は落ち着いたようだ。


「……ありがとう、お嬢さん」

 院長が穏やかな表情で礼を言うと、少女は言った。

「発作が治まったようで良かったです。……でも、念の為早めに受診して下さいね」

「そうしたいのは山々なんだけど、今うちの孤児院は経営が苦しくて、受診している暇が無いのよ……」

 院長が困ったように言うと、少女は言った。

「そうですか……では、うちに援助させて頂けませんか?」

「え?」

「私、こう見えて公爵家の娘なんです。両親に頼めば、孤児院に寄付してくれるかもしれません」

「本当ですか?……でも、初対面の方、しかも公爵家のお嬢さんにそこまでしてもらうわけには……」


 少女は、しばらく考えた後言った。

「……あの、そこにいる少年も孤児院の子ですか?」

「ええ。アーロンと言います」

「では、援助する代わりに彼にうちで働いてもらうというのはどうでしょう?」

「え……」

 院長は、戸惑った様子でアーロンを見た。アーロンは、すかさず言う。

「僕、働きます!」

 すると、少女はアーロンに近付き、右手を差し出した。

「私は、ステイシー・オールストン。よろしくね、アーロン」

 彼女の笑顔は、とても眩しかった。


 そして現在。アーロンは教会の中にいる。祭壇の側には、幸せそうなウエディングドレス姿のステイシー。側には、優しい笑顔のセオドアもいる。

 アーロンは、ステイシー達の幸せを願いながら穏やかな笑みを浮かべた。


完結しました!読んで下さった皆様、ありがとうございます!

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