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謁見

この話に出て来る医療の知識は、あくまで異世界のものです。皆様は、現実の医療の常識に従って行動して下さい。

あと、医師など医療従事者のいう事に従って下さい。

「カヴァナーさんにお手紙でーす!」

 ある日の昼、郵便屋が一通の手紙を配達しに来た。ステイシーは手紙を受け取ると、カウンターの奥で封を切る。そして、内容を目にすると、目を見開いた。

 ステイシーの様子に気が付いたマージョリーが声を掛ける。

「どうしたんだい、ステイシー?」

 ステイシーは、ゆっくりマージョリーの方に振り向くと、戸惑うような声で言った。

「先生、これ……」


 数日後、ステイシーは王城にいた。文官らしき人が前に立ってステイシー達を案内する。

「……お嬢様、俺みたいな孤児が城に来たりして、大丈夫なんでしょうか……?」

 ステイシーの側にいたアーロンが少し震える声で言う。

「大丈夫よ。私は何回か陛下にお会いした事があるけど、優しい方だから」

 ステイシーは優しい笑顔でアーロンに応える。


 実は、先日来た手紙は王城からのもので、城まで薬を届けて欲しいという内容だった。王族であればお抱えの医師や薬剤師がいるはずなのに、わざわざ街の薬局に頼むというだけでも驚くのだが、さらに首を傾げる内容が書かれてあった。

 アーロンを連れて来て欲しいというのである。理由としては、先日ティナ・オリバー夫人の問題を解決した際、ティナがアーロンの態度を気に入って、王妃であるマデリンにアーロンを褒める言葉を伝えたからだとあるが、果たしてそんな事だけで呼ばれるだろうか。


 そんな事を考えていると、廊下でアーロンが足を止めた。

「どうしたの、アーロン?」

「あ……いえ、何となく、この肖像画が気になって」

 ステイシーは、アーロンにつられて壁を見上げた。そこには、歴代の王族の肖像画が何枚も飾られている。アーロンが目に留めたのは、黒髪の男性の肖像画。年齢は二十代くらいだろうか。歴代の王族は金髪や銀髪の者が多い為、黒髪のその男性は目立っていた。

「ああ……あなたと同じ黒髪だものね……」

「お嬢様は、この方がどなたか分かりますか?」

 ステイシーは、ブレットと結婚して王族になる予定だったので、王家の歴史についても学んでいる。

「ええ、この方は、ヘンリー・ウィンベリー様。国王陛下の弟君よ。確か、若くしてお病気で亡くなったはずよ」

「そうですか……」

 アーロンは、肖像画をじっと見ていたが、国王陛下を待たせるわけにはいかないので、すぐにまた廊下を歩き始めた。


それからすぐに、二人は王との謁見に使用される広間に到着した。扉が開かれ、ステイシー達が中に入ると、中に三人の姿があった。

 広間の奥にある玉座には、四十代くらいの口ひげを生やした男性。彼は、現国王でセオドア達の父親でもある、ユージン・ウィンベリーだ。金髪と青い瞳はブレットに似ている。ユージンの右隣には王妃であるマデリン、左隣にはセオドアがいる。


「お久しゅうございます、陛下、妃殿下。ステイシー・オールストンとアーロン・ヒューズ、王命により参上致しました」

 ステイシーが挨拶してカーテシーをすると、アーロンも慌てて頭を下げる。


「わざわざ呼び立てて済まないな。……それで、薬は持って来てもらえたかな?」

 ユージンが穏やかな笑顔で言うと、ステイシーも笑顔で答えた。

「はい。手紙に同封されていた処方箋の写しの通りの薬をお持ち致しました」

「そうか。二人共こちらに来てくれ」


 ステイシーとアーロンは玉座の方に進み出て、ステイシーがユージンに薬を手渡す。

「ありがとう。この薬は以前から飲んでいた薬だが、どういった事に注意すれば良いんだったかな?」

「この薬は、喉や食道に引っかからないように多めの水でお飲み下さい。それと、この薬を飲んだら三十分間は横にならないで下さい。横になると薬が食道に逆流してしまいますので。……ああ、それともう一点、この薬を飲んで三十分間は食事をしないようにして下さい。薬の吸収が悪くなってしまいます」

「そうか、説明ありがとう」


 ユージンは笑うと、アーロンの方に目を向けた。

「アーロン・ヒューズ君……立ち入った事を聞くけど、君は孤児院で育ったんだよね?」

 アーロンは、緊張しながら答えた。

「はい。十二歳になるまで孤児院で育ちました」

「両親の事は全く分からないのかな?」

「はい。生まれてすぐ孤児院に捨てられていたようなので……」

「そうか……孤児院の先生方は君に良くしてくれたかな?」

「はい。俺……私がオールストン家に仕えるまで、ずっと面倒を見てくれました」

「そうか……答えてくれてありがとう」


 アーロンは、不安げな表情で言った。

「あの……恐れながら陛下、私の出自に何か気になる所がございますでしょうか……?」

「いや、実は孤児院に寄附をしようと思っていてね。孤児院がどんな経営をしているのか気になったんだ」

「そうでしたか……」

 それでも納得できないようだったが、アーロンはそれ以上何も聞かなかった。


「それでは陛下、私達はそろそろ下がらせて頂こうと思います」

 一通り薬の説明や確認が終わった後、ステイシーは頭を下げて挨拶した。

「ああ、今後も何か相談する事があるかもしれないが、よろしく頼むよ。アーロンも、薬剤師になる為の勉強に励んでくれ」

「もったいないお言葉、ありがとうございます」

 アーロンも頭を下げた。

「では、失礼致します。お体にお気を付け下さい」

 そう言って、ステイシーはアーロンと共に広間を後にした。


 二人が去った後、笑顔を作っていたユージンは、スッと真顔になった。

「……マデリン、先日のティナの見立て、どう思う?」

「私もティナの言う通りだと思います……もう少し調べてみる必要がありそうですが」

 ユージンは、溜め息を吐いて呟いた。

「本人も孤児院の職員も何も知らないなら、調べるのは難しそうだな……」

 セオドアが口を挟んだ。

「しかし父上、本当にアーロンが……?」

「……わからない。しかし、あの黒髪に黄色い瞳……可能性は高そうだ」

 広間に、沈黙が流れた。


 その日の夜、アーロンは薬局にある自室のベッドに横になりながら、あの肖像画を思い出していた。そして、考えていた。どうしてあの男性の事が気になるんだろう……。


 一方ステイシー達が国王陛下と謁見している頃、エイミスファーマシーではエイミスがハーマン・ヤングを怒鳴りつけていた。

「お前は何をやっているんだ!夜会でステイシー・オールストンと親密になれと言っただろう!」

「そう言われましても……彼女とセオドア殿下の間に入る隙間なんて無いですよー。お薬手帳の件は諦めた方がいいと思いますよ」

 ハーマンがヘラヘラとした表情で言う。エイミスは、唇を噛み締めた。

 お薬手帳の件だけではない。最近『薬屋カヴァナー』は評判が良く、こちらの患者が向こうに流れ始めている。いくらエイミスファーマシーが大きな薬局でも、このままでは経営が危ないかもしれない。何か対策をしなくては……。

 外で雨が降る音を聞きながら、エイミスはずっと考え込んでいた。


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