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薬剤師としての出発3

この話に出て来る医療の知識は、あくまで異世界のものです。皆様は、現実の医療の常識に従って行動して下さい。

あと、医師など医療従事者のいう事に従って下さい。

 ステイシーが薬局に入ると、マージョリーが奥から出てきた。

「先生、今日からよろしくお願い致します!」

 ステイシーが頭を下げると、マージョリーは「着替えて来な」と言って、水色のワンピースを投げて寄越した。

「これは……もしかして……」

「うちの正式なスタッフが身に着ける制服だよ。あんたは今日からうちの薬剤師だ」

「え、でも、私は修業中の身で、まだ患者さんの相手は出来ないんじゃあ……私、見習いとして働くつもりで……」

「あんたの知識と技術は、とっくに一人前の薬剤師と同等のレベルだよ。あんたの人生を縛りたくなくて、正式な薬剤師だと認めてなかったけど」

「……ありがとうございます!嬉しいです!!」

 ステイシーは、満面の笑みを浮かべると、ワンピースを抱えて二階へと上がっていった。


 その日の午後、ステイシーが店内の棚を整理していると、軽やかなベルが鳴った。

「こんにちは……って、え!?」

 店に入って来た人物を見て、ステイシーは目を瞠った。そこにいたのは、銀色のショートヘアに緑色の瞳をした美しい男性。ステイシーは、彼の事を知っていた。

「セオドア殿下……どうしてここに……!?」

 彼は、この国の第一王子であるセオドア・ウィンベリー。第二王子の婚約者だったステイシーは、もちろん彼と交流がある。ステイシーより二歳年上のセオドアは、いつも彼女に優しかった。


「君が薬局で働き始めたって聞いてね。君の様子が心配で見に来たんだ」

 セオドアは、穏やかな笑顔でステイシーに話し掛けた。

「ご心配をおかけして、申し訳ございません」

 ステイシーは、恐縮して頭を下げる。

「いや、こちらこそ、愚弟が済まなかったね。君が男爵令嬢を虐めていただなんて、僕は信じていないから」

「信じて下さって、ありがとうございます……」

 彼の言葉に、ステイシーは感激する。彼は優しくて賢くて容姿も優れていて、ステイシーの憧れの人だ。

「……君が望むなら、僕が個人で雇っている家臣に命じて君の無実を証明する事も出来るけど、どうする?」

 セオドアが、彼女の顔を覗き込むようにして聞いた。

「申し出はありがたいのですが、その必要はございません。私、薬剤師として働ける事が嬉しいのです」

「そう……君は、いつだって前向きだね。本当に、君といると楽しくなる」

 セオドアは、そう言って微笑んだ。


「ステイシー、ちょっと調合を手伝って……ああ、お客様かい」

 奥から出て来たマージョリーが言葉を発した。そして、セオドアを見て目を丸くした。

「え……セオドア第一王子……失礼致しました!!」

 マージョリーが深々と頭を下げる。どうやら、セオドアの顔を知っていたらしい。

「頭を上げて下さい、プライベートで来ていますから」

 セオドアは笑顔でそう言うと、ステイシーの方に向き直った。

「仕事の邪魔をしてしまったかな?」

「いえ、邪魔だなんてとんでもない。気に掛けて頂いて有難いです!」


 ステイシーが慌ててそう言った時、また店のドアが開いた。

「こんにちは……あ、アシュトンさん!」

 見ると、店の入り口に老夫婦らしき二人組が立っていた。男性の方はスラリと背が高く、厳格な雰囲気を漂わせている。一方女性は、柔和な笑顔が印象的で、ふくよかな体型をしている。

「こんにちは、久しぶりね、ステイシーちゃん」

 女性の方が声を掛けてくる。ステイシーは、笑顔で応えた。

「お久しぶりです、ルビーさん。私、今日から正式に薬剤師としてこちらに勤めてるんですよ」

「あらあら、良かったわねえ、これからも頑張ってね」

「はい、ありがとうございます!今日もお薬ですか?」

「ええ、そうよ」

 そう言って、ルビーと呼ばれた老女は一枚の紙をステイシーに渡した。

「ステイシー、それは?」

 セオドアが小声で尋ねる。ステイシーも小声で答えた。

「ああ、これは処方箋です」

「処方箋?」

「はい。この薬を出してくれという、指示書のようなものですね。医師が患者さんに処方箋を渡して、患者さんが処方箋を薬剤師に渡して、薬剤師が処方箋に従って薬を調剤するというという流れです」

「そうなんだね。僕や家族が病気になった時はお抱えの医師が診てくれたから、そういう仕組みになってたなんて知らなかったよ」

 セオドアが感心したように頷いた。


 ステイシーが受け取った処方箋を持って奥の調合室に行こうとすると、セオドアが言った。

「ねえ、薬を調合するところを見学してもいいかな。興味があるんだ」

 ステイシーは、マージョリーの方を向いて聞いた。

「えーと、いいですか?カヴァナー先生」

「いいよ。でも、調合室に入る前に白衣を着て頂かないと。二階に予備の白衣があるから、それを使いな。患者さんを待たせるから、急いでね」

「はい、行きましょう、セオドア殿下」

「うん、よろしく」

 そう言って、二人は二階に駆け上がっていった。


 そして、調合室にステイシー、マージョリー、セオドアの三人が集まった。マージョリーが、お湯の入った釜のような器に薬草と黒い石を入れて呪文を唱えると、魔法陣が現れ、薬草と黒い石が溶けて黒い液体になった。その液体をさらに煮詰めると、粘土のようなドロドロとした物体が出来た。そして、その物体を捏ねて丸薬の形にすると、マージョリーはそれをガラス瓶にバラバラと入れた。

「ステイシー、もしかしてあの黒い石は、魔法石?」

「ええ、そうです。あれは、薬の原料にもなるんですよ」


 魔法石とは、この世界で燃料として使われている石の事だ。前世で言う所の石炭のような価値を持っている。最初にこの薬の作り方を教えてもらった時はびっくりしたが、今ではステイシーも魔法石を使って薬を調合する事が出来る。最も、今はこの世界でも石油が普及しつつあるので、魔法石は次第に燃料としては使われなくなるかもしれないが。


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