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8. やっぱり様子のおかしい婚約者

 


 パーティー会場に着くと、既に多くの人が集まっていた。


(こ、この、煌びやかな輪の中に私が!)


 そう思うだけで緊張で足が震える。

 ガクガクとそんな風に怯えていたらアシュヴィン様の手が優しく私の手を握った。


(え……?)


 私が驚き顔を上げてアシュヴィン様を見つめると彼は前を見たまま言った。


「……大丈夫だ。君は無理せず俺の横で笑っていてくれればいい。面倒な事は俺が何とかする」

「アシュヴィン様……」


 格好いい事を言ってくれているのに……

 どうせなら、その言葉は目を見て言って欲しかったわ!!


(それでも……アシュヴィン様の事を信じて今は彼を頼ろう)


 私がこういった場に不慣れなのは間違いないのだから。

 そして、これからはどんどん慣れていかないといけない。


 ……私はアシュヴィン様の婚約者、なのだから。



「あぁ、そちらがアシュヴィン殿の婚約者となられた……」

「アドュリアス男爵家のルファナと申します」

「へぇ……男爵家の令嬢とは聞いていたけど……君が」


 私はアシュヴィン様と共に挨拶回りをしていく。

 言われたように笑顔だけは忘れない。

 アシュヴィン様の婚約者が愛想が悪いなんて噂がたってしまったら申し訳ないもの!


 アシュヴィン様が婚約した事は知れ渡っているから皆、私の事に興味津々のようで、様々な視線が投げかけられる。

 中でもチラチラとネックレスとイヤリングに多くの視線が集まっている気がする。

 アシュヴィン様の色だからかしらね?


(そして女性からの視線は何だか痛いわ……)


 学園では私とアシュヴィン様が共に過ごす事は無いので、周りの令嬢達にチクチク言われる事は殆ど無い。

 なので、こうして分かりやすくパートナーとして共に行動する社交界の方が視線は痛そうだ。



 アシュヴィン様は宣言通り私をさり気なくフォローしながら、進めてくれたので挨拶回りは順調に進んでいた。


(嫌な視線を送られた時も牽制仕返してくれたわ……)


 守られている気がしてちょっと嬉しかった。




「……大丈夫だろうか? 疲れていないか?」

「あ、ありがとうございます。大丈夫です」

「……そうか。すまない。挨拶回りはあと少しだ。それが終われば殿下への挨拶となる」

「王太子殿下……」


 同じ学園に通っていても王太子殿下は遠い方で、たまにチラリと遠くから見かける程度。


(どんな方なのだろう……)


 その時、ふとリオーナの“殿下も呪いにかかっている”という言葉を思い出した。

 リオーナの言う事が本当なら、アシュヴィン様も王太子殿下もなんの呪いにかかっているのだろう?

 いくら聞いてもリオーナは呪いに関しては口を割らない。

 だから本当の話なのか妄想という名の虚言なのかが全く掴めない。


(他の事はペラペラとよく喋るのに!)


 まさか、アシュヴィン様に貴方は呪われていますか?

 などと聞くわけにもいかない。だから未だに確かめる事が出来ずにいる。


「ルファナ嬢?」

「あ、すみません!」


 色々な事を考えてしまったからか、アシュヴィン様に絡ませていた腕に力が入ってしまっていた。


(いよいよ、もうすぐ殿下への挨拶よ! 失礼の無いようにしなくては!)


 そう気合いを入れる。


「そうだ……王太子殿下への挨拶だが……」

「はい」


 アシュヴィン様が、小さな声で語りかけてくる。

 だけど、様子がおかしいわ。何だか非常に言い辛そうにしている。


「殿下との面識は?」

「ありません。学園でも話した事もありません」

「……そうか。殿下に会ったら……ちょっと驚くかもしれない」

「はい?」


 アシュヴィン様は真面目な顔しておかしなことを言った。

 王太子殿下って驚くような方なのかしら??

 聞こえてくる噂ではそんなおかしなことを言われるような方では無かったのに。


(まぁ、あくまでも噂だし……ね)


 疑問を浮かべる私にアシュヴィン様は更に続ける。


「それと……出来れば……だが、殿下の前では笑顔をそんなに振り撒かないでくれ」

「は、い? 笑顔……?」


 え、まさかのここで笑顔のダメ出し!?


「わ……私の笑顔は駄目ですか?」

「!?」


 これはさすがにショックだわ。

 挨拶回りしながら、アシュヴィン様は横で私の笑顔をダメだと思っていたということ?

 それは悲しい。


「え? 違っ……そ、そういう意味では……無い!」

「では、何故ですか?」

「……」

 

 私の問いかけにアシュヴィン様はどこか困惑した表情を浮かべた。


(これは何と伝えるべきか困っている?)


「実は……」

「はい」

「いや、その、うまく言えないんだが、俺は本当は君を()()()殿()()ならともかく……()()殿()()に会わせたくないと思っている。特に今日の君は」

「…………は、い?」


 これはどういう意味かしら?

 それに、“今の”殿下とは……?


(何だろう……何かが引っかかる……)


「えぇと、どういう意味でしょう? それと笑顔に何か関係があるのですか?」

「……」

「アシュヴィン様?」

「いや、すまない。説明が難しくて……ルファナ嬢、君はあまり鏡を見ないのか?」

「え? いえ、人並みには見ると思いますが?」


 本当に何の話? 私は首を傾げる。


「……っ! ならば……完全に無自覚なのか。ルファナ嬢、今日の君はー……」


 アシュヴィン様は少しの沈黙の後、何かを決意したかのように口を開こうとしたけれど、ちょうど挨拶の時間になったらしくアナウンスに遮られてしまった。

 

「…………チッ…………ルファナ嬢、時間だ。行こう」

「は、はい」


(ん? 気の所為かしら? 今、舌打ちしたような……?)


 とりあえず、アシュヴィン様の真意はよく分からないまま、私達は殿下の元へと向かう事になった。



 ────



「……あぁ、来たね。アシュヴィン。そしてそちらが()()君の婚約者かい?」

「アドュリアス男爵家の長女、ルファナと申します。この度はお誕生日おめでとうございます」


 あぁ、足が震える……緊張するわ。

 まさか、男爵令嬢でしかない自分がこんな直接、面と向かって王太子殿下に挨拶する日が来るなんて。


 そんなことを思いながら頭を下げた。

 それにしても、笑顔をそんなに振り撒くなと言われても難しいわ。


「あぁ、ありがとう……しかし話には聞いていたけど……ふーん、君がそうなのか……アシュヴィンの……へぇ」

「?」


 何だか品定めされているかのような視線だった。


「……殿下。何か言いたそうな視線ですね」

「あ、そう思うかい?」


 アシュヴィン様が王太子殿下に突っかかるような態度を見せたのでギョッとする。


「気にもなるさ。だって彼女はアシュヴィン、君のー……」

「殿下! 彼女の紹介はしました。もう良いでしょう?」

「ははは、つれない奴だな」

 

 殿下は軽く笑ってチラッと私の方を見ると、にっこりと笑顔を浮かべて言った。


「うん、聞いていた通りに可愛らしい令嬢だ」

「あ、ありがとうございます?」


 聞いていた? 可愛らしい? 誰から?

 そんな疑問が浮かぶも、まさか聞き返すわけにはいかない。


「……だからさ、ルファナ嬢」

「は、はい」

「アシュヴィンなんかやめてさ、私にしないかい?」

「……!?」


 王太子殿下の口から、とんでもない発言が飛び出した。



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