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3. 妹が言うには恋に落ちる出会いがあるらしい



──そもそも、呪いとは何なのかしら?

私が知らないだけでよくある話だったりする?


そう思った私は、屋敷にある本の中に何か呪いに関する事が書かれた本が無いかと調べてみることにした。


(そもそも、リオーナの言っていることがよく分からないのよね……)


ヒロイン……つまり、それが物語などでの主人公のことを指すのは分かる。

だけど、リオーナはどうして、あんなに自信満々で自分が主人公だと語れるのかがよく分からなかった。

しかも、()()()()()()()()()()()()()()()堂々と色々な事を語っていたわ。


極めつけは……


「“悪役令嬢”だと言われたわ。どういうことよ……」


うまい言葉をくっつけたものね、と、ちょっと感心する。

邪魔者の事を指すらしい悪役令嬢の私は、すなわち悪女……リオーナからすれば悪姉といったところ?

それはそれで何だか悲しい……

私はガクッと落ち込んだ。


「リオーナに詳しく聞いても……きっと無駄よね」


あの調子だもの。もっとおかしなことを言い出すかもしれない。

そんなことを思いながら、屋敷にある蔵書を手当り次第調べてみたものの、呪いに関して特に記述されている本は見当たらず、特に分かることは無かった。

むしろ……


「恋愛小説の方にあるわね……呪われた婚約者とか恋人とかの呪いを愛の力で解いて幸せになる話」


──アシュヴィン様の呪いはね、ヒロインの愛の力で解けるの


リオーナは確かにそう言っていた。

パラパラと試し読みをした恋愛小説の展開も、だいたいリオーナの言っていたそんな感じだった。


「まさに物語……そして、愛の力、ね」


どうやらアシュヴィン様に嫌われてしまっているらしい私では難しそう。

それとも、まだこれから頑張れば彼に愛される事もあるのかしら?


(だけど、リオーナにはアシュヴィン様を譲りたくない)


うまく言葉に出来ないけれどあんな調子のリオーナとアシュヴィン様が結ばれるのは嫌だ。モヤモヤする。

だけど、私とアシュヴィン様の婚約は当人同士ではなくて、家同士のものだから、本当にアシュヴィン様がリオーナを望めば……


「本当に婚約破棄されてしまう……?」


私はプルプルと頭を横に振り、今考えてしまった事を必死に打ち消す。


(ジメジメ考えるのは私の性に合わないわ)


たとえ、素っ気無くされていても、今はまだ彼の婚約者は私なのだから!

そう自分に言い聞かせた。


◇◇◇


「さぁ、お姉様! いよいよこの日が来たわ!」

「そ……そう、ね」


翌朝のリオーナは朝から元気いっぱいで大興奮していた。

その勢いは留まることを知らず、学園に向かう馬車の中でもずっとこうしてはしゃいでいる。


「あのね? 今日は、とってもとっても大事な日なの! だからお姉様は邪魔しないでね?」

「は?」


邪魔をする、とは?

意味が分からなくて私が首を傾げると、

リオーナは「もう! なんで分かってくれないの!?」と怒り出した。


「あのね? お姉様、今日私とアシュヴィン様は()()()()()()()を果たすのよ」

「え? 出会いってあなた達は一応、既に顔見知り……」

「そうではなくて。()()()()()()()()をするのよ!」


恋に落ちる出会いってどんな?

聞き返そうと思ったけれど、リオーナは勝手にどんどん喋り出す。


「今日の放課後にね? 裏庭に迷い込んでしまった私はハンカチが風に飛ばされて木に引っかかってしまうの」

「え!」


いったいこの子は何の未来を見ているの……?

それと、どこから突っ込みを入れればいいのかしら。

何をしていたら裏庭に迷い込むわけ? 迷子になると分かっているなら行かないでしょ?


「それで、私はその木に登ってハンカチを取ろうとするのだけど、降りられなくなって困ってしまうのよ」

「ちょっと待ってリオーナ? さすがに木に登るのはダメでしょう?」


危険だわ! なんて事をしようとしているの!


「もちろん、分かっているわ! でも木に登らないと恋が始まらないのよ! アシュヴィン様はそんな私を偶然見かけて助けてくれるのだから」

「……」


木に登らないと始まらない恋って何なのよ……

え? 恋ってそういうものだった?


(違うわ……私がアシュヴィン様に惹かれた出会いはもっと……)


「私はアシュヴィン様に、貴族令嬢なのに木に登る“変わった女性”という印象を植え付けて興味を持ってもらわなくちゃいけないの! そこから私に対して“婚約者の妹”以外の感情を持つようになるのよ!」

「……」

「だからお姉様! くれぐれも今日の放課後、私の邪魔をしないでね?」

「邪魔するなって言われても……」

「絶対よ!」


そう口にするリオーナの目はどこまでも本気だった。


もう既に、私の中ではリオーナは充分“変わった女性”よ。

そう思ったけれど面倒な事になりそうな気がしたので口には出さなかった。



◇◇◇



放課後になると私はいつも図書室に寄ってから帰ることを日課としている。

リオーナの言う、アシュヴィン様との“恋に落ちる出会い”が気にならないわけではないけれど、私は裏庭に行ってリオーナの様子を見張るよりいつもの日課を選んだ。


(邪魔しないでと言われてしまったし……)


ここは余計なことを考えないで済む様にまずは今日の課題を終わらせてしまおう! と、決めた。

そうして、いくつかの参考書となる本を手に取りいつもの定位置の席に座り、課題に取り組む。

家だといつリオーナが部屋に突撃してくるか分からなくて集中出来ないので、ここは最高だ。


一通りの課題を解いたあと、んー……と腕を伸ばし、何気なく窓の外を見た。

そこから見えた光景に私は驚く。


「……え! ここって!」


(図書室の窓の下がリオーナの言う裏庭だったの!?)


私のいる所の窓の外から見えるちょうど真下に何とリオーナが立っていた。

まさかの偶然に驚く。


(えぇぇ! ……何をするわけでもなくただボーッと立っているのだけど!)


その手に何かを抱えている様に見えるのは、まさか風に飛ばされると言うハンカチ?


(ちょっと! そんなにキツく握り締めていたら飛ばされないと思うわ!)


伝わることは無いと分かっていてもつい脳内で突っ込んでしまう。


それにしても、何とも言えない光景だわ。だって、リオーナはただボーッと突っ立っているだけ。

怪しい以外の言葉が見つからない。


(まぁ……かろうじて誰かとの待ち合わせ……に見えなくもないかしら?)


この後、ハンカチが風に飛ばされて、リオーナは木に登る事になるみたいだけれども……

何だかハラハラしてしまって私はリオーナから目が離せなくなっていた。

そんなリオーナの周囲をザッと見てみるも特に人気は無い。


(とりあえず今のところはリオーナが木に登る様子も無いし、アシュヴィン様も来ていないようね)


ホッとしつつ、またリオーナを見守る。

そうして、しばらく窓の外に視線を向けていると突然、後ろから声をかけられた。


「ルファナ嬢」

「!」


その声にドキッと私の胸が跳ねる。


(う、嘘でしょう? こ、この声は……まさか!)


私がそうっと振り返ると、やっぱり思った通りの人物がいた。


「ア、アシュヴィン……様……?」

「……」


そこには、(リオーナの話によると)この後、木に登るらしい(リオーナ)の事をを助けることになっているはずのアシュヴィン様が立っていた。


「!?」


──ちょっとリオーナ! どういう事!? アシュヴィン様、ここにいる!

私の脳内はパニックに陥った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 人に必要なのは報連相ね、なろうの主人公やその周囲はまずもってないスキルだけど
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