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18-2. 私は“ヒロイン”のはずだったのに!(リオーナ視点)

 


 ──どうしてこんな事になったの?

 婚約者交代はもう本人であるアシュヴィン様に直談判してどうにかしてもらおう!

 そう思って突撃したのに……


「だからいい加減、邪魔ばかりしないであなたは大人しくすっこんでいなさい!!」


 お姉様にすっこんでいろと言われた……

 その言葉に目を丸くして驚いているうちに、お姉様はアシュヴィン様に好きだと告白して頬にキスを……


(な、なんてことをしているの!?)


 こ、こ、恋人でもないのに、頬とはいえお姉様からキスをするなんて!!

 もちろんそのことにも驚いたけれど、事態はもっと私の驚きの方向へと進んでいった。


(ええ!? 今度はアシュヴィン様からお姉様へのキス!? そ、それも唇に……!)


「ひぎゃっ! ちょっ……ちょっと何して! え、何で……待って……やめてぇ!?」


 私の悲鳴も虚しく、アシュヴィン様とお姉様はそっとキスをし続けた。




(…………私は何を見せられているの?)


 目の前の二人はずーーっとキスをしていた。

 と、言うよりも、アシュヴィン様がお姉様を離さない……が正しい。

 ちょっとちょっと! お姉様が酸欠になりそうなんだけど……!?


(ああ! もう……そ、そこは鼻で息をするのよ、お姉様!)

 

 ────ではなくて!!

 どうして?

 どうして、私と恋に落ちるはずのアシュヴィン様があんなに愛しそうに蕩けそうな目でお姉様を見つめて更に熱烈なキスまでしているの?


(アシュヴィン様はお姉様が好きってこと?)


 まさか、攻略対象者なのにヒロインの私ではなく、悪役令嬢を選んだと言うの?

 そんな事が……有り得るの?

 だけど、目の前で互いに好きだと言い合い、何度もキスを交わす二人はまさに両思いの恋人同士そのものにしか見えない。


(……もうこれ私の存在すっかり忘れてるでしょ)


 完全に二人の世界に入り込んでいる。

 何がいけなかったの? 私はどこで間違えたの?

 考えても考えても分からなくて、私はその場にへたり込む。


 それに、実は気になる言葉がさっきから飛び出し続けていた。


 ───呪いの解呪


(どういう事? お姉様は本当にアシュヴィン様の呪いを解いたの……?)


 もし、本当にお姉様がアシュヴィン様の呪いを解いたと言うのなら、それは何よりもアシュヴィン様がお姉様が好きだということを指している。

 だって、呪いを解くのには必要なのは愛だから。

 

(二人揃ってずっと好きだったって何? アシュヴィン様もお姉様も何でゲームと違うの??)


 本当に本当に分からなかった。



 そして───

 アシュヴィン様の呪いを解き、互いの想いを確認し合ったお姉様とアシュヴィン様。

 お姉様は私に気を使っているのか、家ではアシュヴィン様のことは話題にしない。

 それでも、伝わって来るのは“アシュヴィン様に愛されているという自信”


(……お姉様、綺麗になったわ)


 好きな人……アシュヴィン様に愛し愛される存在。

 それは私がなるはずだったのに!!

 このポンコツなゲームの世界は歪んでる!!

 だってヒロインの私を蔑ろにしている!!

 心の底からそう思った。


(もう、私にやれることは無いのかもしれない……それに、もしかしたら私……ヒロインではないかも……)


 そう思って落ち込んでいた頃、私はたまたまお姉様とアシュヴィン様の会話を盗み聞きしてしまった。

 それによると、クルス様は呪いが解けたらしい。だけど、王太子殿下はまだなのだと言う。


「……そうよ!」


(……もし、私が王太子殿下の呪いを解く事が出来たら、その時はきっと本物のヒロインになれるわ───)



◇◇◇



「本日は私の招待に応えて下さり、ありがとうございます」


 その日、私はあのアシュヴィン様との出会いイベントを行うはずだった裏庭へ王太子殿下を呼び出した。


「……王太子を呼び出すとは、君も大胆な事をするね。不敬だとか考えなかったのかな?」

「いえ。殿下もきっと私と話をしたがっている。そう思いました!」

「……なるほどね」


 私の言葉に王太子殿下はフッと笑った。

 あら? これって好感触??


「まぁ……君には聞きたいこともあったしちょうど良かったよ。奇怪令嬢」

「……きかいれいじょう?」


 私の名前はリオーナ・アドュリアスですけど??

 首を傾げる私を見て殿下は更に可笑しそう。


「君の頭の中は、本当におめでたいらしいね」

「……」


 これは何となく分かる。馬鹿にされた……と思う。

 王子様、酷い!


「まぁ、いいよ。それで? 私をここに呼び出した目的は何だい?」

「……殿下は、未だに呪いが解けていないとお聞きしました」

「…………それで?」

「ですから、私が殿下の呪いを解きます!」

「……」


 私のこの言葉の後、殿下は一瞬だけ黙り込んだと思ったらすぐに笑い出した。


「あはは、本当に言うんだね、それ」

「ど、どうして笑うのですかっ!」

「だって可笑しいだろう? 奇怪令嬢(リオーナ嬢)……君は私を愛してなどいないよね? それなのに呪いが解けるのかい?」

「……っ」


 図星だった。

 ──それでも、それでも、私は呪いを解かなくちゃいけないの!

 だって、私はヒロインだから!!


「ですが、殿下だって呪いが解けなくて困っているでしょう?」

「それはまぁ……それなりにね。でも、君に解いて貰おうとは思わない」

「どうしてですか!?」


 私の質問に殿下はそれまで笑っていた顔を引っ込めて真面目な顔をして言った。


「決まっているだろう? 呪いは好きな人に解いてもらいたいからだよ。勿論、それは君ではない」

「その相手は……」

「そこまで言わないと分からないのかい? 婚約者のプリメーラに決まっているだろう? 私は彼女(プリメーラ)を愛しているからね」

「っ!」


 ──あぁ、まただわ。またしても皆、婚約者を選ぶのね……?

 ヒロインの私ではなく……

 と、私がガックリ肩を落とした時、後ろから声が聞こえた。


「───殿下!」

「プリメーラ!?」


 まさかの、殿下の婚約者……プリメーラ様の登場だった。


(えぇぇ!? なんてタイミングで現れるのよぉぉ!?)


 と思って振り返るとそこにはプリメーラ様と……


(お、お姉様~~!?)


 二人とも息を切らしているのでここまで走ってきたに違いない。

 ど、どうして……?


 唖然とする私の横をプリメーラ様がすり抜けて殿下の元へと駆けて行く。


「……殿下!」

「っ! プリメーラ……まさか……今の聞いて……?」

「…………は、はい……」


 プリメーラ様が頬をポッと赤く染める。


「殿下……いえ、ナージャ様、ごめんなさい。わたくし……あなたを……」

「いいんだ、プリメーラ」

 

 そう言った王太子殿下がプリメーラ様を優しく抱き締めて……


 えぇぇ!? またしても私の目の前でラブシーンが始まっちゃったんだけど!?

 嘘でしょ!?


「リオーナ」


 すると、お姉様が私に声をかける。

 

「お姉様がプリメーラ様を連れて来たの?」

「そうよ。あなたと殿下が見えたから。慌ててプリメーラ様を呼びに行ったわ」

「……私が無理やり殿下の呪いを解くかもって心配した?」

「……」


 お姉様は答えない。

 でも、その無言が肯定を示している。


「王太子殿下もあれで呪いが解けたかしら?」


 お姉様がイチャイチャし始めた殿下とプリメーラ様の方を見ながら呟いた。


「……解けたでしょうよ。あんなにイチャイチャ出来ているんだから」


 私が不貞腐れたようにそう言うとお姉様は「は?」って顔を私に向けた。


「何を言っているの? 呪いとイチャ……イチャは関係ないでしょう?」

「は? お姉様こそ、何なの? 殿下の呪いは()()()()()()()()()()()よ? 今、イチャイチャ出来てるのだから呪いは解けたってことでしょう?」

「え!」


 私の言葉にお姉様が固まった。

 なに? 私、変なことを言ったかしら?


「…………ね、ねぇ、リオーナ。聞いてもいいかしら?」


 お姉様が深刻そうな顔をしながら訊ねてくる。


「なぁに?」

「アシュヴィン様の呪いって……何?」

「はぁ?」


 お姉様ったら今更、何を聞いているの。自分でアシュヴィン様の呪いを解いたくせに!


()()()()()()()()()()()()()()()()でしょ。今更、何を言っているのよ!」


 私がそう答えたらお姉様がまた固まった。

 そして、とても言いにくそうに……首を横に振りながら言った。


「……リオーナ、違うわ」

「何が?」

「アシュヴィン様も王太子殿下も……二人がかかっていた呪いはそうじゃない。全然違うわ」

「…………は?」


 お姉様ったら何の冗談をー……

 私はそう言いかけたけど、お姉様の顔は真剣で嘘をついているようには見えなかった。


「ねぇ、リオーナ。あなたは……ずっと何の……()()()()()の話をしていたの?」

「!!」


 お姉様のその言葉で、これまで私の信じていたもの……全てが壊れる音がした。


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