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17. 呪いという呪縛が溶ける時

 

「お、お姉様! 何しているの!!」


 呆然としていたリオーナがハッとした様子で叫ぶ。

 その顔は真っ青で身体もブルブルと震えていた。


「何って……」


 ──呪いを解くため……ううん、違うわね、勿論それもあるけれどー……


「私がアシュヴィン様のことを好きだからよ」


 好きだからこうして触れたい、触れて欲しい。

 それって決しておかしなことじゃないわよね?


「そ、そうじゃなくて! アシュヴィン様の気持ちも聞いていないのに! お姉様からキスするだなんて……! 頬とはいえ……な、なんてことを……!」

「……」


 リオーナの焦る様子から、もしかしてキスは呪いを解く方法なのかしら? とも一瞬思ったけれどこの焦り方は多分違う気がする。

 リオーナは私からアシュヴィン様にキスをした、ということに驚いている。


(……もしかして、リオーナって意外と純情?)


 人の婚約者を奪い取ろうと企んでいたわりにキスだけでこの反応……

 本当によく分からない子になってしまったわ。

 私は心の中でため息を吐いた。


「ねぇ、リオーナ。あなた、そうは言うけれど、アシュヴィン様の気持ちはー……」


 そこまで言いかけて私は目の前で真っ赤な顔になっているアシュヴィン様を見る。


  (……これ、自惚れでは無いわよね? そんな顔をするんだもの。アシュヴィン様は、きっと……)


「……アシュヴィン様。アシュヴィン様は…………私のことを好きですか?」


 私は呪いが解けていないなら答えられないであろうということを分かった上でそう訊ねた。

 案の定、アシュヴィン様は分かりやすく動揺した。


「っ! そ、それは……っ……!」


 アシュヴィン様がまた言葉に詰まる。


(やっぱり口に出来ないのね……そして、呪いはまだ解けていない!)


 愛の告白をしてもダメ、頬にだけどキスをしてもダメ……

 いったい呪いの解呪の基準とは何なのかしら?

 もしかして、まだ、私の愛が足りない??


「……分かっています、アシュヴィン様」

「え? ルファナ?」


 私はアシュヴィン様の両頬に手を伸ばしていつかのように固定する。

 ふふ、これで目も顔も逸らさせないわよ!

 そう思った私はしっかり彼の目を見つめてながら口を開く。


「私はアシュヴィン様が大好きです」

「ル、ルファナ……」

「アシュヴィン様が答えを口に出来ないことは……分かっています。それがあなたの“呪い”なのですよね?」

「え……」


 驚くアシュヴィン様。その瞳は揺れていた。

 そんなアシュヴィン様すらも愛しく思えて私は微笑みながら続ける。


「アシュヴィン様。()()にするのが難しいなら……()()()()の方法でアシュヴィン様の気持ちを教えて下さい」

「え? ……言葉以外、で?」


 アシュヴィン様が大きく目を見開き驚いた顔で聞き直してくる。


「ええ、言葉以外で。もちろん言葉に出来ることが一番ですけれど、気持ちを伝える方法って言葉以外にもあるじゃないですか」

「それは……そう、だが……」


 おそらく、アシュヴィン様の呪いは気持ちを口に出来ない……ことなのだと思う。

 でも、これまで私と手を繋いだり、抱き締めたりすることは出来た。

 だから、言葉は無理でも態度で気持ちを示せないわけでは……ないはず。


 これはそう思ってのお願いだった。


「大丈夫です! そんな顔をしないで下さい。アシュヴィン様にされて嫌な事など一つもありませんし、私はもう()()()()()()()()()()()()()()はしませんから」

「……ルファナ」


 アシュヴィン様の私を抱き締める腕に力がこもる。

 その温もりからは間違えようの無い愛情が伝わって来る。


「ルファナ、俺は……俺もずっと君のことが………………っ」

「!」


 アシュヴィン様がそこまで言うと、そっと私に顔を近付けて来た。


 (え? あれ!? なんで?)


 私はちょっと混乱した。


(アシュヴィン様のことだからてっきり、もっとギューッと強く抱き締めてくれるくらいの態度を想像していたのに、どうして顔が──……)


 そんな私の混乱など知る由もないアシュヴィン様は、そっと自分の唇と私の唇を重ねた。


 ──あぁ、優しくて甘くて……初めて触れ合った唇はとっても幸せな味がする。



「ひぎゃっ! ちょっ……ちょっと何して! え、何で……待って……やめてぇ!?」


 まるで、このムードを壊すかのようなリオーナの悲鳴が聞こえた気がしたけれど、アシュヴィン様とのキスに酔いしれていた私はちっとも気にならなかった。



「……」

「……」


 ────おかしい。

 さっきから、アシュヴィン様がキスをやめる気配が全く無い。


「……っ、アシュ……」

「ん……ごめん、もっと」

「もっ!」


 私を抱き締めている力も一向に緩まないし、キスも止まらない。

 でも、ちょっと苦しいけどそれを上回るくらいの嬉しさと幸せが込み上げてくる。


(これがアシュヴィン様の私に対する気持ちの答えだと言うのなら──)


 ──こんなの間違えようもない。

 私は、アシュヴィン様に愛されている────……



「────好きだ」


  (え?)


 ようやく唇を離してくれたと思ったら、アシュヴィン様のそんな声が頭上から聞こえた。


「……俺も、俺もずっと君が……ルファナのことが好きだった……」

「ア、アシュヴィン……様?」


 私が顔を上げて震える声で名前を呼ぶとアシュヴィン様は優しく微笑んだ。


「俺は……ずっとルファナのことを想っていたよ…………何をどうしても口にすることが出来なかったけど」

「アシュ……アシュ、ヴィン様……」


 私の目からはポロッと涙が溢れる。


「…………ありがとう。俺の……こんな呪いを解こうとしてくれて」

「……」

「そして、やっぱりルファナ……君が解いてくれた……」

「……」


 涙が出すぎて声が出ない。

 そんな私をアシュヴィン様が愛しい目で見つめて、優しく涙を拭う。

 そして、涙の跡にキスを落としながら言った。


「ルファナはかっこいいのに、こういう所は可愛くて可愛くて……もう堪らない」

「……!?」

「君の全てが……愛しいよ、ルファナ」


 そう言ってアシュヴィン様はもう一度、私の唇にキスをした。


─────……


「…………夢を見ているみたいだ」


 アシュヴィン様が小さな声でそう呟いた。

 私はクスリと笑って答える。

 

「夢ではないです、夢になんてしないでください」

「そうだな……」


 今、こうしている互いの温もりが、これは夢ではないのだと教えてくれている。


「ルファナ」

「はい」

「…………これからは、今まで言えなかった分を、全部、全部君に伝えていく」

「はい……」

「だから、愛が重い! なんて言って逃げないで欲しい」

「は、い?」


 私が顔を上げるとアシュヴィン様と目が合った。

 ……もう、目は逸らされなかった。

 ちょっと不安そうだったけれど。


「……アシュヴィン様」

「…………うん」

「そんなの、望むところです!!」


 私がどんと構えて笑ってそう口にしたら、アシュヴィン様は一瞬、驚いた顔をした。

 けれどすぐに破顔した。


「俺は……ルファナのそういう所も、その笑顔も…………大好きだ」

「私も! アシュヴィン様が大好きです!」


 私達は互いに見つめ合うとそのまま笑い合った。




「……はぁ? どういう事よ……何なのこれ。違う……違う。おかしい……」


 その場には、お互いしか目の入らなくなった私たちの姿に唖然呆然とするリオーナがへたり込んでいた。


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