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14-2. 揺らぐ“ヒロイン”の立場(リオーナ視点)

 


 ──ねぇ、リオーナ? あなたって、本当に“ヒロイン”なのかしら?


 お姉様は私に向かってそんなことを言った。

 はぁ? お姉様こそ何を言っているの? そう思った。


「っ! 当然でしょう? だって私は間違いなくヒロインだもの!」


 リオーナ・アドュリアス男爵令嬢……その名は間違いなくこの世界のヒロイン!


「……でもね? 私にはそうは思えないのよ」

「それは、お姉様は何も知らないからよ!!」

「そうね、知らないわ。でもリオーナのすることが何一つ言う通りになっていないことだけは分かるわ」

「ぐっ」


 私は声を詰まらせる。

 ……嫌なことを言うお姉様!


 だけど、本当にその通りだ。


 出会いイベントも失敗した。

 王太子殿下のパーティーにも行けなかった。

 アシュヴィン様と悪役令嬢であるお姉様の仲にヒビを入れようとしても出来なかった。

 ならば、と無理やり婚約破棄させようとしたのに……それすらも!?


「だ、だとしても! 呪い……そうよ。呪いがあるわ!」


 アシュヴィン様は本当に呪われているの? という疑問は感じたけれどお姉様が解呪方法を訊ねて来たことを考えると呪いにかかっているのは間違いない。


「呪いはどうするのよ!? アシュヴィン様は私と恋に落ちなければ一生呪われたままかもしれないわよ!?」


 アシュヴィン様の恋の相手は私なの!

 悪役令嬢(お姉様)ではない!!


「……リオーナ。私はあなたと違ってアシュヴィン様が何に苦しんでるのかは分からないわ。今も知らない」

「でしょう? それなら、私の方がー……」

「それでも、私は昔も今もアシュヴィン様が好き。変わらず好きなの! 呪いなんてあってもなくても関係なく好きなのよ」

「え……」


 昔から……好き??

 そんな話は知らない。初めて聞いた。


 悪役令嬢のお姉様は、政略結婚で出来た婚約者……アシュヴィン様に婚約の顔合わせで一目惚れしたはずなのに!!


「昔って、やだわ、お姉様。顔合わせの時の一目惚れでしょう?」

「は? 何を言っているの? 違うわ……私は婚約者となる前からアシュヴィン様を密かに慕っていたのよ?」

「そんな……」


 何それ! またしても知らない事が起きている。

 堪らなくなって、私は叫んだ。


「嘘よ、嘘! 嘘ばっかり!!」

「リオーナ!?」

「ああ、そうよ! ……本当はお姉様……あなたも私と()()なんじゃないの!?」

「同じ……?」


 お姉様が眉間に皺を寄せて私を見る。


「実は、私と同じで“この世界”を、知っているんでしょう? 知っていてわざと私を貶めて……」

「リオーナ……また、意味のわからないことを……いい加減にしなさい!」


 お姉様が私に怒鳴る。

 なら何でなの?

 こんなにイベントが、狂ったのは……

 

 そうよ、やっぱり悪役令嬢(お姉様)のせいよ!!


「悪役令嬢のくせに!」

「……また、それなの? ねぇ、リオーナ。あなた本当に分かってるの? そんなことを口にするリオーナの方が“悪役令嬢”みたいよ?」

「っっ!!」


 違う違う!

 私は悪役令嬢なんかじゃない……!

 私がブンブン首を横に降るとお姉様が、はぁ……とため息をついた。


「私にはリオーナが、何故そんなに“ヒロイン”や“悪役令嬢”に拘っているのかさっぱり分からないわ」

「……」


 そんなこと言うけれど、お姉様はヒロインではないからきっと私の気持ちが分からないのよ。


「リオーナ。アシュヴィン様の呪いは私が解くわ」

「は?」


 お姉様ったら、何を言っているの?


「殿下も過去の記録と共に調べてくれている」

「……は?」


 過去の記録?? 何それ……どういう事よ……また知らない話が出て来たわ。


「───呪いを解くのはリオーナ。あなたじゃない、私よ」

「……お姉様はその方法まで知っていると言うの?」


 やめてよ、お姉様に解かれてしまったら“ヒロイン”はどうなるの?


「……知らないわ。それは記録にも残っていないそうだから」


 なぁんだ、とホッとする。記録とやらは中途半端なのね。

 まぁ、私としては助かったけれども。


「なら、お姉様には無理ね。やっぱり私がー……」

「決めつけないで頂戴。私はアシュヴィン様の為に出来ることなら何でもすると決めているの。リオーナ、あなたに頼るつもりは一切無いわ」

「……っ」


  真っ直ぐで曇りの無い目をしてそんな事を言うお姉様を、何故か私は直視出来なかった……


 


 お姉様との話を一応終えた私はお父様の元へ駆け込む。


「お父様! どうして婚約者交代するように説得してくれなかったの!?」

「……リオーナ。言っていただろう? 話はするが期待はするな、と……」


  そう。お父様はお姉様に話しては見ると言ったものの乗り気では無かった。


「どうして?」

「……リオーナは王太子殿下のパーティーの前に侯爵家からルファナ宛てに届いたアクセサリーがあることを知っているか?」

「え? 届いたのは知ってます……が?」


 それって、後に私が贈られるアクセサリーの事よね?

 どうやら間違って早く届いてしまったみたいだけど!


「その反応はルファナだけでなく、お前も意味までは知らなそうだな」

「?」


  意味? どういうことよ。

  好感度が上がったことを示す、アシュヴィン様の瞳の色を象った贈り物でしょう?

  まさか、もっと他に意味が……?


「リオーナ。婚約者交代は諦めろ」

「どうして!? お父様!」

「ルファナが既にアシュヴィン殿の婚約者として知れ渡っているのもあるが……」

「え?」


 そんなに知れ渡っていたの?

 あのパーティーだけで? 意味が分からないわ。


「それと、ルファナの気持ちを確かめようとちょっと試してみたんだが……あの子は全く揺るがない、真っ直ぐな目をしていた」

「なっ!」


 お姉様は揺るがない真っ直ぐな目だと言われていたのに “ヒロイン”であるはずの私の足元は一気にグラッと揺らいだ気がした。


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