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12-2. 何もかも上手くいかない! (リオーナ視点)

 


 ───おかしい! 何もかもがおかしい!

 何がおかしいって? もちろん、()()()!!


 お姉様とアシュヴィン様が立ち去った廊下で私はそんなことを思っていた。



 お姉様は私の代わりに自分がアシュヴィン様の“呪い”を解きたいと思ったみたいで解呪方法を切羽詰まった顔で私に聞いてきた。

 

  (あんなに必死なお姉様、見ているだけで面白かったわ~。無理よ、と告げたら気の毒なくらい顔も真っ青だったし……ふふ)


 だけど、ずっと言っているのにどうしてお姉様には分からないのかしら?

 呪いを解く鍵は“愛”

 アシュヴィン様は、お姉様ではなくヒロインの私を愛することになる。

 だからアシュヴィン様の呪いを解けるのは私だけなのよ、とずっと言い続けているのに。

 悪役令嬢が攻略対象者に愛されるはずがないでしょう?

 お姉様ったら本当に無謀なこと考えるわよよね。


 ──呪いの解呪シーンは“乙女ゲーム”のイベントらしいものだったわ。

 私はそのイベントを起こす日を楽しみにしているの。

 むしろ、早く起こしたい!

 だから、待ち切れなかった私はアシュヴィン様がお姉様の本性を知って軽蔑するイベントをさっさと起こそうと思ったの。


  (これでお姉様は婚約破棄まっしぐら!)


 そう期待して。

 なのに、アシュヴィン様は軽蔑するどころかお姉様を庇った。

 それだけでなく、私を……私を……!!


「突拍子も無いことをする! だなんて酷いわ!!」


 更には奇っ怪な行動をとっているとまで言われた。

 パーティーの件はともかくとして、私の他の何が奇っ怪な行動だったのよ?

 こんな言われ方、酷すぎる!!


「それにおかしいわ……お姉様とアシュヴィン様ってもっとギスギスしていたはずよね……?」


 婚約を結んだものの、いつも二人から感じる距離はとても遠くて、さすが攻略対象者と悪役令嬢だと納得していたのに。


  (いつの間にか“ルファナ”とお姉様を名前で呼んでいたわ……なんでよ?)


 ゲームでアシュヴィン様が悪役令嬢・ルファナの名前を呼び捨てにするシーンなど無かった。常に“ルファナ嬢”だった。

 だからこそ、(ヒロイン)の名前を呼び捨てにした時は特別感が倍増するのに。


「何故、二人の距離が縮まっているの?」


 なぜか待っていてもイベントは起きない。

 王太子殿下の誕生日パーティーのようにイベントの出来事は起こるのに、その通りに進まない。

 こうして無理やりイベントを起こしても上手くいかない。


「バグにしては酷すぎる……“ヒロイン”に対して厳し過ぎるわ!」


 それに、何よりも……一番おかしいのは“呪い”だ。

 さっき確認したけれどやっぱりおかしい。


 ゲームのアシュヴィン様は“呪い”のせいで常に苦しんでいた。

 そんなある日、ヒロイン()がひょんな事からそのアシュヴィン様の“呪い”の詳細を知ってしまい、彼の苦しみを知り寄り添うようになる。

 アシュヴィン様も秘密を知られてしまったからかヒロインに心を開いてくれて愛を深めていく。


 だから、アシュヴィン様は呪われている。呪われていなければならない。

 そして、私が彼の心を癒して呪いを解く!


 ──はずなのに!


「あの反応……本当にアシュヴィン様は呪われているの……?」


 まさかとは思うけど、呪いが存在していないのでは?

 そんな気すらしてきたわ。

 

「………ううん、まさかそんなことはないはずよ」


 だって、国名も登場人物も全てあの乙女ゲームの通りだもの!

 そして、私はヒロイン! 誰がなんと言ってもヒロイン!

 この世界での幸せを約束されたヒロイン!


「はぁ、どうやったらアシュヴィン様は早々に私に振り向いてくれるのかしら?」


 そう思ったけれど、イベントの発生を待っていたらもう遅いのかもしれないわ。

 確実にバグってるみたいだからね。

 残念ながらアシュヴィン様にお姉様への不信感を植え付ける事は失敗した。

 このままではお姉様……悪役令嬢は婚約破棄されないかもしれない。


  (それならいっそ……させるまで!)


 もう形振り構ってなどいられない。私は幸せになりたいの!



◇◇◇



「お父様、お母様……あのね? 話があるの」

「リオーナ? どうしたんだ?」


 お姉様はアシュヴィン様が送ると言っていたので、私は先に帰宅した。

 すると、幸いなことにお父様も帰宅しているではないの!

 やっぱり運は私の味方よ!


  (欲を言うと、お兄様がこの場にいてくれたらもっと心強かったけど仕方ないわね……)


 私達は三人兄妹。

 一番上のお兄様は、我が家の後継として学園を卒業した後は領地にいる。だから滅多に帰って来ない。

 お兄様は末っ子の私を溺愛してくれていたから……今、この場にいればきっと私の味方をしてくれたはず。そう思うと残念だわ。


「お父様、私の婚約のことなんだけど……」

「あぁ、リオーナの相手か? お前も自分の相手がそろそろ気になる頃か。そう思って何人か見繕った所だよ、ほら」


 そう言ってお父様が、釣書を私に見せた。


「……」

「黙り込んでどうしたんだ? この中なら誰でもいいぞ? ちょっと歳がいってたり容姿が気になるのも居るかもしれんが……末っ子で甘えん坊のリオーナには合っていると思うんだ」

「……」


 ──どうしてよ? ちっともヒロインである私に釣り合わない人ばっかり!

 お父様は、この世界のヒロインを何だと思っているの!?

 と、お説教してやりたい。

  このままではダメだと思った私は釣書を閉じると、お父様を涙目で見つめながら訴えることにした。

 涙は必須よ! お父様は私の涙に弱いからね。


「お父様。実は私……ずっとお慕いしている方がいるの……」

「なに?」

「まぁ!」


 お父様とお母様が驚いた目で私を見た。掴みはいい感じのようね! 私は内心でニヤリと笑う。


「それは誰だ? 可愛いお前の為ならどうにか縁づかせてやりたいが……」

「でも、駄目なの……」

「はっ! まさか相手は既婚者か!?」


 お父様の顔が青ざめる。それだけはやめてくれって顔だわ。失礼ね! さすがの私だって既婚者は選ばないわよ!

 そう思った私はさらに目元を潤ませる。


「違うわ……ただ、彼には婚約者がいるだけ……」

「む。それも難しいな」

 

 お父様からは諦めろムードが漂ってきた。

 嫌よ! 私は諦めない!


「いえ、お父様……実は私がお慕いしているのは、グスタフ侯爵家のアシュヴィン様なのです」

「……は? アシュヴィン殿はルファナの婚約者だろう?」

「えぇ……ですが、私はアシュヴィン様のことが好きなのです! そう、お姉様よりも!!」


 私の勢いにお父様が目を丸くして、お母様と顔を見合せる。かなり困惑している様子。


「ルファナよりもって……」

「だって、お父様も感じていますよね? お姉様とアシュヴィン様はあまり仲の良い感じがしないと!」


  (……どうやら、今は変わってきているみたいだけとね。勿論、私はそんな事は口にしない)


「グスタフ侯爵家との婚約は政略結婚でしょう? なら、婚約者が私に代わっても問題ないはずよ!」

「リオーナ……」

「お願い、お父様! お父様からもお姉様に言って頂戴!」

「いや、しかし……」


 お父様がますます困惑の色を見せる。


  (どうして渋っているのよ! 簡単な事でしょう??)


 あぁ、そっか。お姉様の次の婚約の相手に困っているのね?


「お姉様の次の婚約者こそ、この釣書の誰かで良いでしょう?」


 悪役令嬢のお姉様にはとてもお似合いだと思う。

 あ、でもお姉様は追放される予定だからそもそも新しい婚約者はいらないかも?

 ──ま、いっか!

 婚約破棄が一回でも二回でもそんなに変わらないわよね!


「いや、そういう問題では……」

「お父様、お願いよ!! そこをなんとか!」

「……リオーナ」


 イベントのシナリオ通りに行かなくても、最終的に婚約破棄に話を持っていけばいい!

 そう思って私から婚約破棄イベントを無理やり起こさせる事にしたわ。

 お姉様とアシュヴィン様の婚約が破棄になっても、相手が妹の私と代わるだけなのだから、両家としては問題ないはずなのでこれは絶対に上手くいく!


  (さぁ、お父様! うんと頷いて頂戴!! そしてお姉様に婚約解消の話を持ちかけて!)



 私は確実に「分かった」と頷いてくれると信じて、期待した目でお父様の顔を見つめた。



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