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10-2. この世界の“ヒロイン”は私のはずなのに (リオーナ視点)



私が参加する事が出来なかった王太子殿下の誕生日パーティーから戻って来たお姉様は、帰宅するなり私の部屋にやって来た。

そんなお姉様の顔は怖いくらい真剣そのものだった。


(お姉様ったら、どうしてそんなムキになっているのかしら?)


どうやら、お姉様はアシュヴィン様の呪いを解きたいらしい。

それも自分で。


──呪いを解くのに“ヒロイン”だというリオーナと恋に落ちる以外の方法は無いの?


そう聞いてくるお姉様の様子を見て私は思った。

お姉様ったら、まだ自分の立場を分かっていないんだわ、と。

だって、そうでしょう?

私は“ヒロイン”で、お姉様は“悪役令嬢”

悪役令嬢のお姉様が攻略対象者であるアシュヴィン様の呪いを解く?

そんな事は有り得ないと分かっていても、万が一、そんな事が起きてしまったらゲームのストーリーは破綻してしまうではないの。


(既にもうどこかおかしい気もしているんだから!)


だから、これ以上余計なことをしてストーリーから逸れてしまうのは勘弁して欲しい。

私の幸せの為に、お姉様は“悪役令嬢”として婚約者のアシュヴィン様から婚約破棄をされる。

これだけは、絶対に絶対に譲れない。


─────……


あの日、突然前世の記憶を思い出した。

あまりにもビックリして思わずお姉様の所に駆け込んでしまったほど。

だってこんなの誰かに言わずにはいられなかったんだもの!


この世界が、かつて前世の自分がハマってプレイしていた乙女ゲームの世界だと知って、私は興奮したわ。

しかも、ヒロイン転生! 何これ凄いわ! 幸せになる予感しかないじゃない!


「かつての私の推しはアシュヴィン様だったわ」


だからなのか、前世を思い出す前から私はお姉様が羨ましかったの。

だって、お姉様の婚約者のアシュヴィン様は、私でも知っている有名人。

あんなにカッコイイんだもの当然よ!


そんな引く手数多なはずのアシュヴィン様が、お金しか取り柄の無いような我が男爵家と婚約を結ぶ事になった。

だけど、その相手は私ではなくお姉様だった。


「ずるいわー……そう思っていたのよね」


客観的に見ても私は可愛い!

だから、将来は結婚相手にはさほど困らないと思っているわ。

でも……やっぱり“男爵家”という身分は不利なのよ。


(よくて素敵な男性を捕まえてもせいぜい伯爵夫人になれるかどうかよね……お姉様は侯爵夫人になろうとしているのに……!)


アシュヴィン様の婚約者は可愛い私の方が相応しいのではないかしら?

同じ男爵家の姉妹なのだから、可愛い方がアシュヴィン様も喜ぶと思うのに。

と、不思議で仕方なかった。


だから前世の記憶を思い出した時、やったわ! と喜んだと同時に全てが納得出来た。


(なぁんだ! 婚約破棄イベントがあるから選ばれたのがお姉様だったのね!)


結局、最後に選ばれるのは私!

ちょっとお姉様が気の毒だとは思うけど、ストーリー上、婚約破棄イベントはとっても大事なの。

お姉様の存在は私とアシュヴィン様の恋を盛り上げてくれる。

散々、私を虐めた悪役令嬢のお姉様が、アシュヴィン様に追い詰められるシーンと来たら……もう!


「ふふ。でも、“お姉様”ってあんまり悪役令嬢のイメージではないのよねぇ……ゲームではすっごく性格が悪かったのに」


現実のお姉様は基本的にお小言は多いけど、私に虐め……はしない。


「あ、でもさすがのお姉様も婚約者を奪われるとなったら豹変してしまうとか?」


それは何だか面倒ね……あと辛いのは勘弁だわ。楽して幸せになりたいもん。

そう思った私は、どこまで信じてもらえるか分からなかったけれど、お姉様にこの世界の詳細を話す事にした。




「うーん、あのお姉様の反応は、半分信じて半分疑っているわね」


部屋に戻った私は、さっきまでのお姉様との会話を振り返る。

結果は思わしくなかったわ。

お姉様は、私の事を変な子を見る目で見ていた気がする。


(違うのにー!)


“呪い”の事もそう。

この乙女ゲームの攻略対象者達はもれなくとある呪いにかかっている。

“ヒロイン”はそんな彼らと交流を図りながら呪いの事を知り、愛を育み……そして最後は呪いを解いてハッピーエンド!

これがゲームの大筋。


そして、彼ら攻略対象者達は全員婚約者がいて、その婚約者が“悪役令嬢”役を担っている。

ルートによって“悪役令嬢”が違うので、現実に置き換えたら相手をするのは間違いなく大変。


「だから、私は逆ハーなんてゲームに無い無謀なことはしないと決めているわ!」


狙うは最推しのアシュヴィン様と決めている。

ゲームだってプレイする時は一人一人を一途に攻略していた。だから、一途に行けば必ずルートに入れるはずよ。


「早く私と恋に落ちてもらって、アシュヴィン様の呪いを解いてあげたいわ」


(だってアシュヴィン様の呪いは…………だしね)


早く解かないと困るでしょう? 多分、今も困っていると思うの。


「──まずは出会いイベント。これ重要!」


ハンカチが飛ばされて木に登った私を助けてくれるアシュヴィン様!


「……ふっ……ちょっと私が木に登れるのか? という心配はあるけど大丈夫でしょう。“ヒロイン”には不思議な力が働くに決まっているもの!」




と、挑んだ出会いイベントは何故か失敗!


(どうしてアシュヴィン様は現れなかったの!? 私の記憶違いだった??)


そんなはずない……と思うも私だってゲームの全容全てを完璧に覚えているわけではない。

日にちを間違えたのかと思って、その後も数日間、裏庭に通ったけれどアシュヴィン様は現れなかった。


次に思い出したイベントは王太子殿下の誕生日パーティー。

お姉様の代わりに私が参加する事になるはずだった。


「殿下にも口説かれちゃうから、ちょっとモテモテ気分を味わえるのよね~」


なのに、これもおかしかった。

体調を崩すはずのお姉様はピンピンしていて、何故か終盤でアシュヴィン様から()()()()へと贈られるはずの装飾品(アクセサリー)もお姉様に届いていた。


(なんて酷い手違いなの!! アシュヴィン様はうっかり別のアクセサリーと間違えたに違いないわ!!)


だってあのアクセサリーは特別だ。

嫡男であるアシュヴィン様が生まれた時に、グスタフ侯爵家が彼の目の色を元に作らせた一点物。

ストーリーの終盤であれを身に付けて社交界に出る事で、お姉様ではなく“私”が彼の最愛なのだとアピールする事になるはずの重要アイテム!


「まぁ、いいわ。いずれアクセサリーごと私の物にすればいいだけだもん……」


まだまだゲームは始まったばかり。好感度上げはこれからなのだから!


「けど、シナリオに無い事をしたからかしらね……パーティーへの直談判も失敗しちゃったわ……」


だけど、会いに行った時のアシュヴィン様の様子がおかしかった。

ゲームで見ていた私の知っているアシュヴィン様とどこか違うと思った。


(おかしい……アシュヴィン様って、ちゃんとゲームの通りに呪われているのよね……?)


そんな疑問が浮かぶ。


()()()()()()()()()し……どういうことなのかしら」


呪いにかかってくれていないと、“ヒロイン”の役目が無くなっちゃう!

だって、私だけが呪いに苦しむ彼の理解者となれるのだから……!


「全てはこれからよーー!




そう自分に言い聞かせてパーティーへの参加も諦め、次のイベントに備えようとしていた所へ……

こうしてお姉様が乗り込んで来た。

そんなに必死な顔をしてお姉様ったら……そんなにアシュヴィン様の事が好きなのかしら?

傍から見ても仲が良いとは言えない雰囲気なのに。


(違うわね……お姉様は自分の婚期を逃したくないだけ、よね)


私と違ってお姉様は崖っぷちだもの。

そこには同情するけれど、お姉様には早めに退場願いたいわ。


だから、私はニッコリ微笑んで答える。


「無いわ。前にも言ったように“呪い”を解けるのは私だけ」


──当たり前でしょう?

ゲームで呪いを解いたのは“ヒロイン”だけ。

“ヒロイン”に選ばれなかった攻略対象者はどのエンディングでも呪われたままだった。


つまり、私以外に解ける人間はいない!


「……」


私の返答に、お姉様の顔がサッと青ざめる。

ごめんなさいね、お姉様……


「ねぇ、お姉様……そんなにアシュヴィン様の呪いを解きたいのなら簡単な方法があるじゃない」

「……リオーナ?」


お姉様が怪訝そうな顔を私に向ける。


あら、やだ。お姉様ったら、本当に分かっていないのね?

私は更に笑みを深めて言う。



んー、本当は婚約破棄されるところを見たかったけど仕方ないわね?



「アシュヴィン様の婚約者の座を私と交代すれば良いのよ。それで私がアシュヴィン様と仲を深めて恋に落ちれば呪いは解けるわ」

「……っ!!」


私の言葉を聞いたお姉様の顔色はますます悪くなった。


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