95.俺にはあいつらがいる
スカベンナーは桃乃にベッタリとしていた。たしかに犬も飼っている桃乃だから、動物の扱いには慣れているのだろう。
俺も回復魔法が使えたら今頃はスカベンナーに好かれていたはずだ。考えるだけでコボルトが恋しくなってくる。
「とりあえずここには何もないから外に出ようか! オークも探さないと行けないしね」
俺達が集落から出ようとすると、スカベンナーは俺達と反対の方に歩いて行く。どうやらスカベンナーはこの集落の奥に住み着いているようだ。
「それにしても変わった匂いがするぞ?」
外から吹く風に乗って、普段感じる桃乃と違った匂いが香ってくる。
「あれ? 何かつけた?」
「いえ、スカベンナーの匂いでしょうか」
桃乃は自分の体臭を確認するが、首を傾げていた。
後から調べて知ったことだが、ジャコウネコ科は臭腺というものが存在し、分泌液は香水の補強剤を中心に、制汗剤や催淫剤、皮膚病の薬にも使われるほど万能なものらしい。
「そんなに気にならないからいいんじゃない?」
「先輩の鼻がおかしくなければ大丈夫ですね」
「おいおい、それはももちゃん酷くないか?」
「えっ? 先輩の鼻がおかしくならなければ大丈夫ですねっと言いましたよ」
どこかしっくりはこないが、桃乃がそう言うのなら合っているのだろう。
「ああ、そうか」
「ほんとに単純ですよね」
「なんか言ったか?」
「女性の独り言ですよ」
たまに独り言を言っていることがあるため、そのまま気にせず外に出ることにした。
♢
俺達は外に出るとその光景に驚いた。さっきまでと景色が変わっていたのだ。
「こんなにヤシの木って生えてたか?」
「いや、さっきまで3本ぐらいしかなかったですよ?」
集落に入るまではヤシの木は3本程度だったのが、いつのまにか20本近く綺麗に並んでいる。
そう、綺麗に整列するように並んでいた。
「これってまさか……」
俺はヤシの木を眺めていると、種類がわかったのか表示が変わっていた。
――トレント亜種
まさかアイテムとして回収した木炭の素材が、ヤシの木だとは思いもしなかった。
「あいつらトレントだぞ」
見た目はただのヤシの木。でも、正体はトレントの亜種だった。ドリアードと知り合ってからなぜかトレント達は協力的だったが、ここでもそれは変わらないようだ。
「先輩って木に好かれてるんですね」
桃乃はクスクスと笑っていた。ええ、俺も木に好かれる経験はないので驚きだ。
俺がそのまま歩くとトレント達は自身のヤシの実と種を俺の足元に落としてきた。それを拾うと、全員が同じ行動して気づけば、ヤシの実と種がたくさん落ちていた。
「ああ、ありがとな」
そのまま回収していくと、近くにいたトレントを軽く撫でる。どこか木の枝が動き、ガッツポーズをしているように見えた。
「ははは、先輩を見ていると飽きないですね」
先輩に対して飽きないって言葉はどうなんだろうか。
「先輩がその前のトレントを撫でないから、撫でられたトレントに向かってヤシの実を投げてますよ」
どうやら他のトレントが嫉妬しているようだ。それを止めるために近づくと、トレントはこちらを見ていた。
顔はないはずだが、こちらを見ているように感じた。
「お前ら、喧嘩するなよ。仲良くしてくれないとドリアードに怒られるぞ」
トレントはお互いに向き合うと、ぶるぶると震えていた。
俺は木が震えるところを初めて見たけど、不思議を通り越して神秘的に感じる。そもそも、木が震える瞬間を誰も見たことがない。
あるのは風に揺れる木だが、ひょっとしたら彼らも自ら揺れているのかもしれない。
それにしても、ドリアードってトレント達からは恐れられている存在なんだろうか。
「おい、ももちゃんいく――」
俺が桃乃の方へ振り返ると彼女も震えていた。
笑いを堪えているのだろう。たしかに木を撫でながら、話しかけて仲裁に入る人が実際にいたら頭のネジが外れているやつにしか見えない。
そう、桃乃には頭がおかしいやつに見えていた。
「おい、桃乃!」
「はい、先輩! 私は決して笑ツッ!」
桃乃は手で口を塞いでいた。
おい、帰ったら覚えておけよ。
「じゃあ、目的のオーク討伐にいくか」
「はい!」
俺達はトレントに見送られながら、オークを探しにまた砂漠の中を歩き始めた。
「あっ、先輩そっちさっき行った方ですよ!」
どうやら俺は行く道を間違えたようだ。
ああ、さっきは通るはずのない道でキョロキョロとしていたサンドワームが走ってきたみたいだ。
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