87.事件の裏側
俺は早速家に帰る前に低価格で買えるVR機器を買った。その名も"星空満喫"というものだ。
資料の理解を得るために買ったが、意外とこれが使える。
疲れた体でVRゴーグルをつけて寝るだけで、山奥の夜空を見ることができる。自宅で簡単にできるプラネタリウムのような物で、リラックス効果は抜群だった。
「はぁ……これで少しはゆっくりできるな」
空にはたくさんの星が散りばめてあり、設定で季節も変更可能なシステムだ。
「それにしてもこれってゲームなのか?」
最近だと島を開発するゲームなどの非日常を求めるゲームが流行っているらしい。
俺がリラックスタイムを過ごしていると突然電話の音が聞こえてきた。
どうやら桃乃からの着信のようだ。俺はVRを止めて電話に出た。
「もしもし」
「お疲れ様です。先輩、今時間いいですか?」
桃乃の声は電話越しでもわかるほど、どこか重たい声をしていた。また何か起きたのだろうか。
「どうした? 何かあったのか?」
「いや、特にこれと言ってではないんですが、今テレビをつけてもらってもいいですか?」
俺は桃乃に言われた通りにテレビをつけた。
「今つけたぞ」
「えーっと○○テレビで"過去のニュース。あの事件の裏側"という番組がやっているんですけど、見てもらっても良いですか?」
「ああ、今変え……」
俺はその番組に変えるとスマホを落としてしまった。
「先輩! 大丈夫ですか!」
「せんぱーい!!」
俺のスマホからは桃乃が俺を呼ぶ声がずっと聞こえていた。すぐにスマホを拾うと桃乃に返事をする。
「ああ、すまない」
「これって先輩が言ってた――」
「ああ、清香さんで合っている」
そこにはクイーンデスキラーアント……いや、清香さんの顔写真が大きく載って報道されていた。
「先輩の話を聞いてなんとなく気になって調べてたんですけど、この事件って20年前に実在した話らしいです」
「そうか……」
頬には一筋の涙が流れてくる。あの時の気持ちが再び蘇ってきた。
テレビの中では清香さんは一家で無理心中をしたと報道されていた。
その中で止めに入った男性が、そのまま清香さんに馬乗りにされ、殺されたと報道されている。
警察側は当時、聞いてて明らかにおかしいと思わなかったのだろうか。
それは電話をしている桃乃も感じていた。
「先輩が話していた内容とはちょっと異なりますね」
「そうだな」
テレビに映る逮捕された瞬間の映像を見て、すぐにテレビを消した。
「嫌なことを思い出させてすみません」
俺の声を聞いた桃乃は謝っていた。桃乃のせいではない。
「清香さん今頃は家族と楽しく過ごしてるかもしれないですね」
「そうだといいな」
清香さんの家族みんなが幸せに過ごせる世界がどこかにあればと心の底からずっと思っている。
頬を伝う涙を拭いて、またVRのゴーグルをつけた。こういう時のために"星空満喫"があるのだろう。
開発者は相当精神的に落ち込んでいたのかもしれない。忙しい日常でのひと時の癒しが、その人の日常を明るくしてくれるのだろう。
俺はそう思いながら、VRが見せる星空を眺めることにした。
ゴーグルの隙間から溢れ出る涙は止まらない。
あのダンジョンは何のために存在していたのだろうか。
その後、桃乃に聞いた話だと清香さんはその後も魂が抜けたような状態になり、事件に関しては黙秘をしていたらしい。
そのため、犯人の物的証拠は少ない状態で裁判が始まり、裁判では最終的に事件当時、"被告は心神喪失の状態だった疑いが残る"として死刑ではなく無期懲役の判決になった。
一審では何も話さない清香さんに、当時夫が亡くなったショックから精神疾患があり、その影響で責任能力がなかったとして弁護側が無罪を主張した。だが、検察側が関係ない一般人を巻き込んだ残虐な殺人と死刑を求刑した。
死刑にはならなかったものの、罪が重いと弁護側は判断して不服申し立てをしたが、二審で自身の口から"私が殺しました。だから早く家族の元に連れてってください"と泣き叫んだことで、無期懲役と判決された。
その時の記録では清香さんは髪の毛が真っ白になり、頬や身体中の肉は無くなり痩せこけていた。
どこか遠くを見ながら切れた唇を震わせ、にこりと笑いながら、垂れてくる血と目から溢れ出る涙を流す姿がそこにはあったと記録されていた。
人を殺めてしまったことを反省するようにと、裁判官は清香さんに伝えたらしいが、今でもその時の判断が正しかったのかと、当時の裁判官は印象に残っていると、テレビの中では話していたらしい。
その後、清香さんは刑務所の中で謎の死を迎え、当時の事件はあまりにも残酷で謎に包まれたニュースと言われていた。
死ぬ間際、刑務所の中で清香さんは"家族で行った琵琶湖にまた行きたい"と刑務官に話すことがあったらしい。
誰が殺したのか、本当に犯人は清香さんだったのか、その時のことは誰も事件の真相を知ることはなかった。
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