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4.残酷な殺人鬼

 俺は視線をすぐに横に向けると、そこには服は破かれ生気を失っている女性が倒れていた。顔はすでに青白く、頬もげっそりとしている。全体的に細身というよりは痩せこけている印象だ。


「おい、大丈夫か?」


 俺は女性の頬を叩くと感情は抜け落ち、わずかに息をしている程度だ。


「おーい!」


 俺はその後も叩いていると、彼女の黒目はぐるりと回り焦点が合う。やっと俺の存在を認識したのだろう。


「いや……いや……ゴブリンの子を産むなんて――」


 女性は自身のお腹を強く叩き出した。さっきまで弱々しかったのが嘘のように自身を叩きつけている。


 奇妙な行動に俺は女性の手を掴み止めた。


「おい、何やってるんだ!」


 女性は必死な顔でこちらを見ていた。


「私はあいつらの母親になんかなりたくないの!」


 あいつらの母親ってどういうことだ?


 もしあいつの体液が体に入っていれば、アフターピルを飲めば望まない妊娠はしないはずだ。


 その瞬間女性のお腹は少しずつ膨らみ始めた。お腹の中で風船が膨らんでくるような感じに俺は違和感を覚える。


 その姿はテレビで海外に向けての支援金を募っている栄養失調の子供のようだ。


「ねえ、私を殺して……早く殺して!」


 俺は女性が何を言っているのかわからなかった。ただでさえ、今の現状に驚いているのと小さな男に瓦礫をぶつけたばかりだ。


 女性は再びお腹を必死に叩き出した。


「産まれないで……おりてよ!」


 必死に動いていた女性は急に動きを止める。


 次の瞬間突然女性が叫びだした。


「あ……あああああー!」


 俺に向かって血が噴き出した。俺は何が起こっているのか分からなかったが、よく見ると女性のお腹は風船が割れたように弾けて腹部の皮膚と筋肉が裂けていた。


「うおおぉぉ」


 あまりの出来事に驚き、その場から後ろに下がった。


 遠くから女性の様子を見ていると、見た感じではそのまま女性は意識を失い倒れていた。


 何が起こっているのか理解はできていないが、ただ一つ言えることは彼女のお腹から、小さな緑の人のようなものが出てきたことだ。


 さっきまで女性に覆い被さっていた男を何回りか小さくした感じで見た目は全く一緒だった。


 俺は腹から出てきたそいつを見つめると、視界にはゴブリンと表示されていた。彼女のお腹から出てきたのはゴブリン(・・・・)だ。


 彼女はゴブリン達の"孕み袋"として利用されていた。


 だからさっきまでずっとお腹を叩いたり、大きく飛んだりしていたのだろう。


 "おりて"と言っていたのは、流産してという意味だとここで知った。


 子供を産む為の道具として使われていることに、俺は気持ち悪さとともに、なぜ早く動かなかったのかと後悔の念を感じた。


 女性の腹から出てきたゴブリンは周囲をキョロキョロ見渡していると、俺と目が合い駆け寄ってきた。


 ゴブリンから何か感じるが良い雰囲気ではないことは確かだ。


「キィー!」


 何か甲高い声を出しながら飛びかかってきた。


 俺は咄嗟に近くにあった瓦礫を手に持ち、手を大きく振りかぶり瓦礫をゴブリンの顔に目掛けて投げた。


「えっ!?」


 野球経験もなく、あまり力が強くないはずの俺が投げた瓦礫はそのままゴブリン顔面に当たった。


 ゴブリンの顔は瓦礫が当たった衝撃で首からえぐり取られるように離れ、その場で体だけがこちらに向かっていた。


 驚いているとそのままゴブリンの体は俺の目の前で倒れた。手足はわずかに痙攣し、そのまま力尽きるように動きが止まった。


「はぁ……はぁ……」


 俺の頭の中は今の現状を整理できず、混乱している。


 それでも一つ言えることは、女性はもうこの世には存在しない人となったことだ。俺が女性に近づくと、彼女の肌は青白く息はしていなかった。


「俺が早く助けなかったから死んだんだ……んぐ……ッ!? ゔっ、えぇ……」


 目の前の衝撃に俺はその場で吐いた。人が死ぬところを間近で見たのは初めてだ。


 そして、人かわからない存在を2人も殺してしまったのだ。考えてみれば人殺しのような存在になってしまった。


 それでも俺の中でそんな余裕はなかった。小さなゴブリンが声を発してから胸騒ぎが収まらない。


 どこか感じる危険信号に俺は自然と頭の中が冷静を取り戻していく。


 そんな中、遠くから何かが近づく音が聞こえてきた。


 俺が警戒していると死んでいる小さなゴブリンから何かマークのようなものが出ていた。


 ゴブリンに近づくとそこには袋のようなマークが出ていたのだ。


 俺がその袋マークを押すと、その場でゴブリンの体は何事もなかったかのように消えた。


 あまりの出来事に俺は驚いた。女性に近づいても袋のマークは表示されず代わりに"女性の死体"と何か透明な板みたいなウィンドウが表示された。


 どうやら本当に女性は亡くなっていたようだ。


 しかし、驚く時間もなく足音がだんだんと近づいて来た。それも一人ではなく、大勢でこちらに向かっているような足音だ。


「とりあえず3時間は逃げ続けないといけないってことか?」


 さっきの説明ではチュートリアルの制限時間は3時間あり、その時間を超えないと帰れないような印象を受けた。


 チュートリアルを終えないとあのトンネルのような穴からは帰れないと思った俺は立ち上がり、この場から離れることを決めた。


 その時に一度でも出入り口の穴に向かい確認しておけばよかったのだ。


 そうすればあんな大変な思いをすることはなかったのだと、あの時の俺に伝えたい。


 俺はやつらから逃げるために走り出した。


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