165.フライパン無双
その後もどこからか出てくるオークに対して桃乃の無双は続いた。どんどんフライパンで叩いて……いや、殴っている桃乃の顔はどこかスッキリとしている。
「ブヒィ? 何で人間がいるんだ? えっ、何が起きてるんだ?」
そんな中、目を覚まして起きてくるオークは俺達を見て何かを言っている。
意識して言葉を聞くと、どうやら俺達を歓迎しているような発言と他のオークを止めようとする声が聞こえた。
どうやらフライパンの効果なのかオーク達が友好的になっている。
ルイビ同様にステータスには表示されない何かがあるのだろうか。
「俺もいくぜー!」
笹寺フライパンでどんどんオークを叩いていく。だが、力の差でオークの顔は潰れている。
「ちょっ、このままじゃ私が回復魔法をかけないといけないじゃないですか!」
桃乃は倒れたオークに回復魔法をかけていた。
俺は二人を横目にドワーフの救助に向かった。
オークの国は男性のドワーフは少なく、基本的に女性ばかりだった。
ここでは繁殖が主で行われて、武器や防具はドーリが捕まっていた集落で製作していたのかもしれない。
俺は部屋を一つずつ開けていくと、誰かを閉じ込めるような牢獄を見つけた。
中からどことなく焼肉屋と似たような匂いがしていた。
「何でこんなところ――」
奥に進もうとした瞬間、横から槍が飛び出てきた。
「この者には誰一人近づけさせないぞ」
影から出てきたのはハイオークだった。
「お前も操られているやつか」
魔刀の鋸を取り出し構える。だが、目の前オークは驚いて襲ってこない。
「お主は俺の言葉がわかるのか?」
「わかるぞ」
「おおお、人間が喋った!?」
そのハイオークからは珍しくルイビと似たような感覚を抱いた。他のオークとは違い意思疎通がしっかりとしている。
「おい、普通は喋る……いや、オークの言葉は話せないか」
俺はハイオークを気にすることもなく牢獄に近づいた。
「だから近づくなと言っただろうが」
俺は突き付けられた槍を掴み折り曲げた。これでも無駄に力があるから、槍一本ぐらい余裕だ。
「うぇ!?」
折り曲げられると思わなかったハイオークは驚いていた。
「それでここに何が……」
俺は中を見て驚いた。目の前には黒焦げになったルイビがいたのだ。
「おい、大丈夫か!? おい!」
わずかに息をしているが自動鑑定からも死ぬ寸前だと警告されていた。
俺は魔刀の鋸で鉄格子を切り落とす。
「おい、これを飲め!」
俺はHPポーションを取り出すと口元に持っていくが、ルイビは飲む体力もなさそうだ。
「慧か……」
「おい、話さなくてもいいから黙って――」
ルイビは俺の手を止めるように手を重ねた。
「オラはそんなに長くないからやめるんだ」
「そんなこというなよ!」
俺はルイビに言ったことを今も後悔している。俺自身間違ったことは言っていないと思うが、さすがに限度はある。
「最後に頼みを聞いてもらってもいいか?」
「最後とか言うなよ」
「オラ……焼肉になったらしい。慧が食べてくれ」
いや、確かにすごく香ばしい良い匂いが出ているが、さすがに今話すことでもない。
「先輩ここに……」
外の制圧が終わったのか桃乃が建物の中に入ってきた。
「ももちゃんすぐに回復魔法を頼む!」
俺の異変にすぐ気づいた桃乃は近寄って回復魔法をかけ始めた。
それでもルイビの体からは焼けた痕は治ってもルイビはぐったりとしている。
俺は同時にHPポーションを口の中に無理やり流し入れると、突然脳内にアナウンスが聞こえてきた。
【スキルを使用しますか?】
俺は突然のアナウンスに驚いた。今までスキルの確認をされたことはなかった。
「ルイビが助かるなら使ってくれ!」
「先輩?」
アナウンスに聞こえるように叫ぶと、俺の体は光を放ち輝き出した。
「ももちゃんはこのまま回復魔法をかけてくれ!」
「わかりました!」
俺は桃乃にそう伝えると、意識がどこか遠くへ行くような気配がした。
♢
気づいた俺はいつのまにかオアシスの中心で倒れていた。体を起こそうとしても言うことが聞かず勝手に体が動き出した。
あの時の事件と同じ感覚だ。
「ルイビそんなところで寝てどうしたんだ?」
「何もないよ? ちょっと人間のことを考えていたんだ」
どうやら俺はルイビの記憶の中に入ってしまったようだ。
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