163.オラの誤ち ※一部ルイビ視点
俺はフライパンを見て驚いているとそれに桃乃は気づいたのか声をかけてきた。
「先輩どうしたんですか?」
「いや、このフライパンが邪気を振り払うらしくてな……」
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《邪気払いのフライパン》
効果 聖域にある鉄で作ったフライパン。邪気を払うことができるらしい。
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謎のフライパンは今後の鍵になるかもしれない。
実際、効果には邪気を払うことができるらしいと書いてあるため、できないわけではないのだろう。
そんなことを話していると、ドーリは着替えて戻ってきた。
「それで俺に話とは何かあったのか?」
俺はオークの国であったことを全て伝えた。
オークは人間に憧れていたこと。
王女様と呼ばれる存在が現れてから少しずつ変わってしまったこと。
そして、進化していないオークは未だに人間と関わりたいということを全て。
「それを俺に話して何がしたいんだ?」
確かにドーリの言いたいことは俺も理解はしている。何か理由があったとしても、やり方を間違えてしまえば関係が良くなることはないのだ。
「仲良くしてくれとは言わない。ただ、オークはオークで理由があったということだけ知って欲しかった。ただそれだけです」
どっちも助けると決意したが、裏を返せばどっちも助けることができないということでもある。
「そうか……。ただ、俺達は助けられた身だ。出来る限りの手伝いはしよう。そして、どうか仲間を助けてください」
ドーリもドワーフとしての考えがあるのだろう。その中で俺の考えを否定しないだけ、まだマシなのかもしれない。
「ではこのフライパンをいくつか作ってもらってもいいですか?」
俺達は邪気を払うことができるフライパンを作ってもらうことにした。ドーリは不思議そうな顔をしていたが、何も聞かずに頷いていた。
♢
オラはいつからやりかたを間違えていたのだろうか。初めて人間の友達ができたと思ったが、彼を裏切ることをしてしまった。
心の底で同胞を止められないことは分かっていた。だから彼をきっかけに何か変わるかと思ったが、結局は何も変えることができなかった。
それはオラが一番わかっていた。彼にあんなことを言わせてしまった。それだけがオラの心残りだった。
「おい、貴様何も吐かないのか!」
友達は変わってしまった。一緒に人間になることを夢見て、大きくなってもいくらオラが変わり者だとしても彼だけは常に味方だった。
だからこそオラは彼の味方でありたいと思った。だが、その気持ちはもう無くなってしまった。
「オラは悪いことをしたつもりはない!」
現場にいたオラは証拠人として囚われ、檻に入れられた。オークジェネラルである親友に尋問……いや拷問されている。
「まだそんなこと言うのか? やれ!」
「あああぁぁぁ」
体に火で熱した鉄を押し当てられてる。焦げる臭いが部屋中に広がっていく。
あの中であった出来事を吐くまで、この拷問はずっと続いている。
「ははは、こんなのは痛くもないぞ」
だが、そんな体への痛みより、慧を傷つけてしまった心の傷の方がオラは痛かった。
「何を笑っている」
焦げる皮膚にオラは昔聞いた焼肉という拷問を思い出す。
せっかく食べられるのであれば、人間の友達である慧に食べて貰いたい。そう思ったら自然と笑いが込み上げてくる。
オラが裏切ったのに何を思っているのだろう。
「こいつが吐くまで焼き続けろ」
「いいんですか? ルイビ様は我らの同胞ですし上位種です」
「こんな使えないやつは必要ない。やれ!」
そう言って親友は去って行く。昔と変わった親友が仲間のオークに圧をかける。オーク達は逆らえないのだろう。
いつからあんなに変わってしまったのか。
変わる前にオラが止めるべきだったのだ。
「オラのことは気にしなくていい」
オラは仲間であるオークに声をかけた。彼らも生きるために必死なはず。
ハイオークになったばかりの彼らはまだ王女様……いや悪魔の手がつけられていない純粋に進化した子達だ。
そんな彼らにこの役目は可哀想だが、しっかり今の現実を目に焼き付けてもらえれば、オラが生きていた証になるだろう。
現状を変えるのは次の世代に託すしかない。
「ルイビ様すみません」
「おい、本当にやるのかよ!」
「だって俺には待っている妻と息子がいるんだ! 今ここでやらないと俺や家族が殺されてしまう」
目の前で泣きながら必死に戦っている同胞に俺は檻の中から近づいた。
こんなに心が綺麗なやつなら、きっとこの国も変わっていくだろう。
「君は家族を守ることだけ考えなさい」
オラは彼の手を握り、自身で真っ赤に燃えた鉄を押し当てる。
「ルイビ様やめてください。やはり私がまち──」
「君達は間違っていない! 間違っていたのはオラ達だ! だから君達には幸せになって欲しい。決して王女……悪魔には負けるな」
今までの過ちを反省するかのように、オラは自分の体へ強く強く鉄を押し当てる。
「ああ、もう一度慧に会いたかったな」
オラの最後の希望は叶わないが、それでも人間と友達となる夢は叶えることができた。
そんなことを考えていると、次第に意識は薄くなり、周りの声は聞こえなくなった。
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