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161.発作

 桃乃達がいる集落まではベンだけが頼りだった。集落にはリョウタが存在しているため、魔物達は近づくのを恐れてしまう。


 そのためベンが行きたくないと思うところへ向かって走っていくと、気づけば自然に戻って来ることができた。


 ベンにしたらめちゃくちゃ嫌だとは思うがそれも仕方ない。


 だから集落に戻ってきた時には体中に引っ掻き傷ができていた。


 俺が集落に入るとドワーフ達が忙しそうに走り回っていた。一人で行動していたため、時間感覚があまりなかったが、だいぶ時間が経ったのだろう。


「先輩どこに行ってたんですか!」


 そんな中、桃乃らは必死に子供達をあやしていた。忙しなかったのは、子供達を泣き止ませようとしていたからだ。


「ちょっと偵察に行ってたわ」


 俺の様子を見て何かを思ったのだろう。それ以上は聞いてこなかった。むしろ子供達の世話で忙しいのかもしれない。


「あっ、皆さんになぜこんなに泣いてるのか聞いてもらってもいいですか?」


 どうやら一人泣いたと思ったら、連鎖したように急に子供達が泣き出したらしい。


 俺はすぐ近くにいたドワーフに声をかけると、初めに生まれたハーフのドワーフも同じように何かに怯えて泣いているらしい。


 小さい子ならわかるが、あの子は園児ぐらいの大きさだ。そんな子が怯えながら泣くってことは、何かあったということだ。


「この泣き方って何かを恐れているのか?」


 そんな様子を遠目で見ていた笹寺は冷静に考えていた。いつもふざけている男もこういう時にはどこか頼りになる。


 俺はなんとなくこの原因の人物が誰かわかっていた。


 いつも通りにダンジョンの中に入っていくと、ダンジョンの内は冷たくいつもより静けさが増している。


 子供達は半分魔物であるオークの血が入っている。魔物達は本能的にリョウタを恐れているため、オークの血が今回反応したと予想していた。


 リョウタの部屋に行くとベットの中で布団に包まるように震えている。その回りをアンデッドコボルト達が心配そうに眺めていた。


 そもそも俺よりも何倍も大きいリョウタに合わせたベットに乗るのも大変。体は大きくても、どこか子供みたいな存在だ。


 そんなリョウタの様子は明らかに普段とは異なっていた。


「おい、大丈夫か?」


「どうせみんなこの顔が嫌いなんだ」


 俺が声をかけても届かない。ずっと何かをぶつぶつと独り言を言っている。


「おい、リョウタどうしたんだよ!」


 俺は勢いよく布団を外すように持ち上げる。掛け布団を動かすにも、足をしっかり踏ん張って飛ばすように持ち上げる必要があった。


 だが、急に身の危険を感じた。咄嗟に後ろに下がると、目の前のリョウタが突然噛み付いてきたのだ。


「なんで僕ばかりこんな思いをしないといけないんだ。僕は何もやってないよ。なんで僕だけ……」


 リョウタは何かに怯えながらも、時折痙攣発作みたいな症状が出ていた。きっとパニック障害に近いのだろう。


 大きなコボルトもどきのような、アヌビスも発作が起きるとは思いもしなかった。


 痙攣発作するたびに、何か強い圧が放たれアンデットコボルト達も同様に怯え出す。


 ドワーフの子供達が急に怯え出したのは、リョウタの影響だった。


 俺はヒーリングポットをアイテムから取り出すと、リョウタの枕元に置いた。


 すぐに良い匂いが部屋を包んでいく。


 俺は近くにいたアンデッドコボルトをリョウタから離す。


 何かの拍子にまた攻撃されたら、コボルト達は消滅してしまう。


 あとはリョウタを落ち着かせるだけだ。


「リョウタは何もやってないぞ?」


「こんな顔になりたくてなったわけじゃないのになんで……」


「そうだな。でも俺はお前の顔嫌いじゃないぞ」


 リョウタを優しく撫でながら落ち着くのを待つ。発作が出てから俺に出来ることは、安心させてあげること、ぐらいだ。


 実際犬の顔をしているリョウタはキリッとしているが、可愛い顔をしている。


 リョウタの記憶を探ることができれば何かしら解決は可能かもしれない。ただ、クイーンデスキラーアントのように記憶を探ることはできなかった。


 何かきっかけは必要なんだろう。


 しばらく噛みつかれそうになりながらも、側にいると次第にリョウタは落ち着いてきていた。


 俺から見たら大きな子供が寝ているようにしか見えない。


 いつもダンジョンという部屋に閉じこもっているが、俺が会いにきた時は嬉しそうにしている。


 この間は映画館のようなスクリーンで、ずっと昔のアニメを一緒に見ることになった。


 リョウタはアニメ好きだから俺とも趣味も合う。


「うっ……」


「リョウタ大丈夫か?」


 意識が戻ってきたリョウタは痙攣発作も治まりぐったりとしている。


「ああ……僕またなったんだね」


 いつもは自分のことを我と呼んでいるが、今回は僕と呼んでいた。


「いつもこんな感じなのか?」


「もう忘れたけど、辛い気持ちが押し寄せて死にたくなる。そもそも僕は何をやっても死ぬことはできない」


 リョウタは過去に自殺のようなことをしようと思っても死ねなかったらしい。


 確かにダンジョンのボスみたいな存在が自害することはさすがにできないだろう。


「まぁ、落ち着いたなら良いじゃないか! コボルト達も心配していたぞ! あいつらボロボロになりながらもリョウタを見てたぞ?」


「そうか」


 リョウタはどこか寂しそうに天井を見上げていた。


 俺は優しくリョウタを撫でると寝音を立てるように眠りについたようだ。


 その後、俺が地上に戻ると子供達は落ち着いて、大人達とともに寝ていた。

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