第一王子
この俺が王太子……未来の国王に相応しい。
生まれた時から国王の座に着くに相応しく生きてきた。俺の周囲も皆が、俺が玉座に座るのが当然だと思っている。ただ、何人か使用人でも側近でも俺のことを理解出来ずに去って行った者達も居たが。
俺は気に入ったものは全てにおいて使い倒すのが俺の役割だと思っている。玩具にしろ持ち物にしろ、壊れるまで使用することで俺の“愛”を伝えている。それだけ使用するのだから使われる物も喜ぶだろう?
そしてそれは人も同じ。
気に入った者達は、俺のために、仕事に精を出す事が使用人にしろ側近にしろ、奴等の幸せのはずだ。だが気に入った者程、俺のことを理解出来ないらしく、精神を病む者や体調を崩す者が続いて去って行く。残った者達は、俺に媚を売って機嫌取りにしか興味ない使えない者達ばかり。使えないから気に入らないので、俺もあまり奴等に仕事を与えない。そしてそういう者達ばかりが俺の周りに残っている。……何故だ。
まぁいい。使えないが、双子の弟の周囲よりはまだマシなようだから、適度に仕事を与えてやろう。心が広いという事も国王は周囲に示さねばならないからな。
しかし。そんな俺でも困ったことが一つある。
俺の婚約者になるのは、ツェリしか居ない。
立ち居振る舞いも語学を含めた学力も地位も揃った女。俺に媚を売らず誰に対しても常に冷静な態度は王妃に相応しいとは思うが、その一方で周囲からはその冷たい態度を快く思われていないようだ。だからこそ、そんな冷たい女の結婚相手など俺しか居ないというのに、ツェリは俺に対しても余所余所しい。
まぁ、自分が俺の婚約者になれば、王太子妃……未来の王妃になることは確定するから慎重になっているのだろう。それは俺も理解している。
それに。
忌々しいことだが、俺の双子の弟も国王の座を狙っているため、ツェリを欲している。ところ構わずツェリに求婚しているのだから余計にツェリも慎重になっているのだろう。
全くもって不愉快だ。
ツェリは俺の妻になり、王妃になることこそ相応しいというのに。
アイツがあんなだから俺の手を取れないのだろう。
それにツェリは、家庭環境が少々悪い。
ツェリの異母妹が俺に纏わり付いてペラペラと喋るので状況は理解しているが、どうやらツェリは父親と義母と異母妹から鬱陶しがられているらしい。
ツェリの兄が帰国するまでだろうがな。
何を勘違いしているのか知らんが、あの異母妹は自分こそ王妃に相応しいとか言ってやがる。公爵家の血を引いてないのに何を言っているのか。まさか自分の父親が公爵家の血を引いているとでも勘違いしているのか?
ああそういえば、あの異母妹は平民の娘だったか。貴族は跡取りの居る者の再婚に限り、平民を後妻に迎えてもいいことになっている。ツェリの兄が居るから平民を後妻に迎えたのだろうが……あの父親も愚かだな。公爵家の金で平民とその娘に贅沢三昧させるなど……。ツェリの兄が爵位を継いだら全額が返せるのか? 国の法で父親に後妻も愛人も居なければ、ツェリの兄は稼ぐ宛がない父親を養う義務が生じるが……。後妻が居る時点で稼ぐ宛があると示しているようなものだからな。公爵家とは何の関係もない平民の母と娘のために公爵家の金が遣われることは許されない。返金の義務が生じるというのに。
まさかとは思うが、そんな法を知らないとは言わないだろうな……。仮にも筆頭公爵家の公爵代理なのだから。
まぁ俺には関係ないな。
ツェリの家庭環境も俺に口出しすることは出来ないし、する気も無い。ツェリが婚約者であれば口出しする権利は発生するが……公爵家のことに首を突っ込む気はない。贔屓をしていると周囲から見られるようなことをしたくないし、抑々これくらいの対処が出来ないようならツェリを買い被っているだけだ。王妃になるのだから、この程度の問題を自力で捌けないのは無能でしかない。
そんな風に思ってツェリとは少し距離を置いて接していたからなのか。
ツェリが窓から身を投げた、と聞いた。
チッ。
買い被り過ぎたか。この程度のことで身投げするくらい薄弱な精神だったとは……。
俺の気に入りならば、俺に壊れるまで使われる覚悟を決めておくべきだろう。
見舞いの品一つ送らず、当然見舞いにも行かなかったからか、俺がツェリの現状を把握したのは、ツェリが身投げをしてから十日後。ツェリの兄が帰国してからだった。
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