表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

保健医・2

 此処でツェリ嬢の家庭の複雑さが問題視される。


 ツェリ嬢のデホタ公爵家は、亡き母君が本来の血筋。ツェリ嬢と兄君は間違いなく亡き母君の子。しかし、2年前、母君が病死するや否やツェリ嬢の父親は、囲っていた平民の愛人を後妻に迎えた。その後妻との間にはツェリ嬢と同い年の娘が居る。

 兄君は、どうやら母君が亡くなる前から他国に留学していたようで。おまけに亡き母君の両親も既に他界している事から、ツェリ嬢の父親はやりたい放題。ついでに後妻と娘もやりたい放題。


 それがツェリ嬢の現状だ。


 で。ツェリ嬢の父親は、自分が公爵だ、と勘違いしているので。自分のもう1人の娘であるペイジを双子の王子どちらかの婚約者にしたい、らしい。

 阿呆だとしか言えない。


 デホタ公爵家の血筋が入ってない後妻の娘に価値など無いことに気付かないのが阿呆だ。伯爵家の三男だったのだが、なんで両親と兄2人はまともなのに、あの父親だけが脳みそ空っぽなんだろうか。

 更に言えば、何故、自分が公爵だと勘違いしているのだろう。


 我が国は家門だけでなく血筋にも煩い。

 だから、ツェリ嬢の母君が亡くなられるまでは、彼女が“女”公爵だった。男尊女卑の気がある国だが、ツェリ嬢の母君と妹君しか生まれなかったのだから、ツェリ嬢の母君が女公爵なのだ。

 そして、男尊女卑よりも血筋の方が大切にされている以上、亡き母君の産んだ息子と娘が正統な公爵家の人間。


 つまり次期公爵はツェリ嬢の兄君であり、父親は単なる公爵代理でしかない。


 ツェリ嬢の兄君が他国へ留学しているのは、亡き母君が、夫が平民の愛人を囲った事で、万が一、愛人が男児を産んで兄君に害を成す事にでもなれば……と危惧したため、と調べて解っている。

 しかも、亡き母君は、兄君が成人するまでは、仮令自分や妹であるツェリ嬢に何か有っても、留学から帰国するな、と厳命されていたようで、母君の葬儀にも帰国しなかった。


 父親は息子が帰国しないのは、知らせが届いたのが遅かったからだろう、そして薄情だからだろう、と考えているようだが、ツェリ嬢は亡き母君から聞かされていたから、兄君が帰国しなくても薄情だとは思っていないようだ。

 そして、母君という味方が無く、影でそっと使用人達を含めて助けてもらっているものの、表向きは孤立した公爵家内で、ツェリ嬢は兄君が成人年齢に達するまで待っている。

 尚、奇しくもその兄君は今年の誕生日で成人年齢に達する。


 それが、彼女の公爵家内での現状。


 では、公爵家外、つまり簡単に言えば、学園内での彼女は……と言えば。


 伯爵家以下の子息子女達からは尊敬の眼差しをされつつも近寄り難く思われている。筆頭公爵令嬢の自覚が有るから凛とした一本筋の入った令嬢。立ち居振る舞いは言うに及ばず、学力もトップクラスのAクラスで3位以内に入り(優秀と言われる双子の王子達と3人で常に競っている)偉ぶる事なく控えめ。

 但し、滅多に笑わないクールな令嬢とも言われ、爵位から考えればAないしBのクラスに入ってないと問題視されてしまうのに、Dクラスの異母妹とは真逆と言われている。異母妹のペイジは愛嬌だけは、有る。


 また、その優しさにも気づかれにくいため、一部の子息子女からは、冷たい令嬢とも噂されている。


 彼女はおそらくその噂を耳にしていた。それでも表情を崩す事は無かった。それはおそらく、双子の王子達がツェリ嬢の気持ちなど無視して、自分と婚約しろ、と毎日のように攻めていたからだろう。口説くといえば聞こえは良いかもしれないが、時も場所も弁えず、あの調子では、ツェリ嬢が参るのも当然だった。

 そんな時に少しでも表情を崩すような事が有れば、その表情を崩した相手が何かしらの問題を起こした、と思われる。下手をすれば、その家だけでなく一族にまで影響を及ぼす。だから、ツェリ嬢は表情を崩さない。


 だが。日に日に憔悴していくツェリ嬢。けれど、決して愚痴も溢さず文句も言わない。かと言って王子達どちらを良くも言わない。正しく距離を取って、王子達2人に変わらぬ態度を貫く。


 彼女は、自分の表情一つ、発言一つが良いことでも悪いことでも、周囲に影響を与える事を良く理解していた。だからこそ、双子の王子達を貶す事も非難する事も褒める事も認める事も何一つ言わなかった。


 だが、そんな態度が気に入らない者達が一定数居た。

 その中で酷いのが、異母妹・ペイジ。

 両親の意向も有るのだろうが、ペイジ自身がどちらかと婚約し、どちらが王太子になろうと、どちらかは王子のままである事から、妃になりさえすれば、贅沢が出来る。と考えている脳みその足りない娘だ。更に言えば、王子妃ならば常にチヤホヤされるのが確定する、とも考えている。脳みそが足りないなりに考えた未来とやら、らしい。


 しかし、ツェリ嬢が居るから、ツェリ嬢が王子達に何の反応も示さないから、怒りが伴うようだ。その上、ペイジが王子達にアプローチを仕掛けても躱される。




 肝心の王子達はペイジに見向きもしないのだ。




 当たり前だ。

 ペイジは、ツェリ嬢が居るから、振り向かない。と思っているようだが、それは違う。

 立ち居振る舞いは元より成績優秀で武の心得もある双子の王子は、王族の誇りを持っていた。だから、ペイジのような中身が詰まっていない令嬢を妃に迎えるはずがない。


 但し、性格が2人共、アレだ。

 第一王子は、捻くれている。

 あれだ。好きな子ほど苛めたくなる、という面倒な捻くれ方だ。尚、嘘か真か知らないが、三歳より前から気に入った玩具を壊す傾向がある、らしい。最初は気に入らないから壊すと思っていた使用人達が気に入りを尋ねたら壊した玩具ばかりを気に入った、と答えた……らしい。本当ならば捻くれているとしか言えない。


 第二王子は、博愛主義者。

 聞こえは良いが、要するに女なら誰でもオッケーの浮気者だ。尚、これも嘘か真か知らないが、三歳より前から女性に限り愛らしい笑顔を振り撒いていた、らしい。その愛らしさに微笑ましく思っていた周囲だったが、ある時、周囲は男性に対しては一貫して愛想を振り撒く事がない事に気付き、七歳を超えた辺りで第二王子に尋ねた使用人(男)に、冷たい視線を向けながら、男に愛想を振り撒く意味が分からない、と宣った……らしい。本当ならば女性のみに限り博愛主義としか言えない。


 つまり、双子の王子達はツェリ嬢を妃にしたい、と毎日攻め立てているのだが……第一王子は、ツェリ嬢を貶める発言しかしない。例えば「お前のような笑顔も浮かべられない冷たい女は、この私以外の妻になどなれん。仕方ないから妃にしてやろう」 という風に。尚、本心から自分以外の男は、ツェリ嬢には見合わない、と思っている。思っているが、言い方というものが有る。こんな事を言われて「お願いします」 と言う子が居るだろうか、という話である。


 では、第二王子と言えば。博愛主義者だから、当然。両手に花どころか両足でも足らない“花”と共に求婚している。例えば「ツェリちゃんも、僕達の仲間入りしようよ! あ、もちろん、彼女達共相思相愛だけど、ツェリちゃんと1番相思相愛になりたいかなぁ。あ、でもツェリちゃんを1番にしちゃうと皆が嫉妬しちゃうから、全員同じ1番だね! でもツェリちゃんだけが正妃だよ!」 という感じだ。これで結婚したい令嬢が居るのか? と心底思う。

 ……ああ、いや、第二王子の“花”達は、それでも結婚したいのかもしれないが、側妃狙いなのだろうな。いや、違うか。中にはツェリ嬢を追い落として正妃狙いの“花”も何人か居たな……。第二王子の正妃になったとして国王にならなかったら、どうするのか気が知れん。


 まぁ、親も娘を王妃にすることを目標にしているからなぁ。ツェリ嬢、そりゃあ疲れるな。


 私は王家の影だが、王子達は私のことを知らない。寧ろそれで良いと思う。あんな双子王子の王位継承争いに巻き込まれたくない。まぁこんな不敬な人間を影にしておく事自体、問題だろうが、内心なので知った事じゃない。


 その双子達に言い寄られてもツェリ嬢は毎回変わらない。常に態度が一貫している。


 だからこそ、ツェリ嬢の異母妹含む一部の子息子女から、不気味に思われているのだろう。


 思えばツェリ嬢は、家でも外でも気が休まらないのではないか、と気付く。今回、記憶喪失になった事は、ツェリ嬢にとって良い方に働くのか、悪い方に働くのか……。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ