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兄・3

「誰ですか」


 怯えたように私を見る美しく成長した妹に、私は笑いかける。


「ツェリ。兄だ。マイトだ」


「……お、にい、さま?」


「ああ」


「他国にいる、と」


「帰国した。今。今日は私の誕生日。成人したからな。公爵家を継ぐために帰って来た」


「お、かえり、なさい……?」


「ただいま。ツェリ。状況は聞いた。怪我は?」


「大丈夫、だと思います。記憶が有りませんが」


「それも聞いた。ツェリ、私は王城へ行って公爵家当主になるための手続きをしなくてはならない。執事や使用人達はツェリの味方だ。だから大丈夫。安心していい。少し待っていてくれるか?」


「あ、あの! お、お兄様」


「ん?」


「わ、私、誰かに突き落とされて」


「それも聞いた。誰か調べる」


「あ、あと、あと、私、記憶が無いので、王子殿下と結婚出来ません! きゅ、求婚していた、と手紙が来ましたがお受け出来ません!」


「うん、いいよ。大丈夫。それも国王陛下に話しておくから安心していい。さぁ、まだ朝早い。私が帰ってくるまで少しおやすみ」


 ツェリは、報告では表情も変えず、常に冷静で誰に対しても一線距離を置いていたらしいが、記憶が無いせいか、とても不安そうな表情をしながら訴えてきた。きっとどんなツェリでも可愛いのだろうが、不安そうな表情や憂い顔は取り除いてあげなくては。

 求婚されていたことを手紙で知らされたというのなら、それは第二王子の方だろう。博愛主義者だかなんだか知らないが、他の女とツェリとを天秤にかける奴など私が許すわけがない。第一王子はツェリをこき使おうとしていたようだし、そんなのも要らん。


 当主の指輪と印璽を手にして少々サイズが合わないながらも公爵として誂えた服装でなくては王城には入れないために執事が持って来た着替えに袖を通し、私の荷物が届き次第、当主の間に運び入れるように告げながら、王城で手続きが終わったら先に学園へ乗り込むことを告げた。婿と愛人とその娘は、学園の後だが今日中に終わらせればいいのだから問題無い。

 今日私が帰国するのは分かっていたから様々な準備が終わっていたのだろう。馬車に乗り込み王城へ向かい、文官を急かして手続きに入る。さすがに文官も“筆頭公爵家の真の当主”たる私の言う通りに急がざるを得ないだろう。義叔父の手紙にも急かされ、推薦書もあり、指輪と印璽を見せられてしまえば。それでも結構待たされたが手続き完了の文書を確認し、大臣のサインと国王陛下のサインも確認する。


 印璽を使用して国王陛下へ第一王子、第二王子の求婚は拒否する旨を認めた手紙をその場で書いた。公爵家当主が使う便箋ではないが、まぁ急ぎだ。構わない。理由にツェリが記憶喪失だと書いておく。それを文官に必ず渡すよう呉々もよろしく、と脅しておいて学園へ乗り込み、学園長に当主の指輪と義叔父の封蝋を見せつつ、ツェリの学園内での状況の悪さを締め上げる。十日もあったのだからツェリを突き落とした犯人も見つけてあるだろう? と義叔父の封蝋片手に切り込んだ。

 手紙そのものは、学園長宛ではないから見せないが、さすがに隣国とはいえ王弟殿下個人の紋章は知っていたらしい学園長は冷や汗を流しながら、犯人を特定していないことを遠回しに言ってきたので、クビになりたいなら構わない、と脅せば速攻で生徒を全員集めた。最初からそうしていればいいものを。


 第一王子と第二王子も居たが、愛人の娘も居た。一応異母姉が休んでいるというのに見舞いもしない、現状も理解出来ない奴に興味はない。


「ツェリは我が妹だ。デホタ公爵の名において、ツェリを突き落とした愚か者は出てこい。三つ数える間に出てこないなら、全ての貴族家にデホタ公爵の名において潰す」


「な、なんですの、あなた! デホタ公爵は私の父ですわ!」


 チッ。愚か者の異母妹がっ。


「お前の父親であり私とツェリの父親は、伯爵家の人間だ。デホタ公爵のわけがない。ただの代理だ。当主は亡き母であり、私が成人するまで代理だったに過ぎん。本日私がデホタ公爵を継いだ。国王陛下から認めるサインもあれば、此処に当主の指輪もある。序でに貴様等全員に言っておくが、私とツェリの亡き母の妹は隣国の王弟殿下に嫁いでいる。どういうことか分かるな? そこの婿で公爵代理だった奴の愛人の娘程度に媚びを売ってもいいことなど一つも無いぞ。もう一つ。ツェリは記憶喪失だ。だから第一王子・第二王子の婚約者などなれん。王子達諦めろ。もちろん、愛人の娘を含めた学園の者達の記憶も無い。ツェリの記憶を失わせた奴よ、我がデホタ公爵家に対する侮辱行為と見做す!」


 さて、犯人はこの状況で出て来るかな。

 既に生家に到着した時点で義叔父の密偵が犯人を突き止めてくれたが、こっそり、なんてまどろっこしいことをする気は無い。出てくれば犯人の家だけが潰れる。出てこないならば学園に子を通わせている貴族家全てを潰すだけだ。


「いち、に」


「わ、私ですっ!」


 なんだ、名乗り出てしまったか。つまらん。まぁいい。名乗り出た娘が密偵が探し当てた犯人と同じなので、仕方なくこの家だけが没落し爵位返上だ。後はツェリに陰口を叩いていた家に叱責の手紙を送ることを生徒達に宣言し、第一と第二の王子達が顔色を蒼白に変えているのも無視して、私がデホタ公爵であることが呑み込めていない愛人の娘も置き去りにして、デホタ公爵家へ帰還。


 即刻、父親だった婿と愛人に私がデホタ公爵ということを、義叔父の手紙に手続き完了の書類を見せ、印璽と指輪を見せつけて貴族籍除籍の書類にサインをさせて学園から帰った娘共々追い出し、立て替えた代金回収も宣言して、国境の街へと馬車を出させた。もちろん、公爵家の私兵付きで逃げ出せないようにして。私兵の長に金を持たせて街全体で監視するよう命じて、ようやく私はツェリの元へ再訪した。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

次話で完結。

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