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兄・1

 亡き母が突然

「隣国へ留学しなさい」

 と言ったのは、二歳下の妹・ツェリが十歳の時だった。ようやく私は成人を迎えられる。一応の父親は、私が生まれた後でとある平民と出会い、恋愛物語でよく言われている「真実の愛」とやらの関係になったようだ。当然デホタ公爵である母は直ぐにその事に気付いたが、政略結婚で父親に恋愛感情を抱かなかったため放置していたらしい。父親も、私の他にもう一人はデホタ公爵家に子が居ないと困ることは分かっていたから、母に子を授けた。母の妊娠が分かった途端に自分の役目が終わったとばかりにデホタ公爵家の金で愛人を囲った、とか。


 母は鼻で笑っていて、私が成人して爵位を譲ったら離婚して愛人に貢いだ金を返してもらう、と意気込んでいた。やがて愛人との間に娘が生まれその娘に係る費用もデホタ公爵家の金だったので、それも上乗せすると言っていたが。ツェリが八歳の頃から少しずつ体調を崩すようになった。医者が呼ばれたが、診察結果は母しか知らない。ただ、ツェリが十歳になってから医者に診てもらった後で、急に隣国へ……叔母の元へ留学するよう言われた。いや、命じられた。

 多分、その頃には母は余命宣告を受けたのでは無いだろうか。いや、余命宣告はされていなくても病が悪化していたのかもしれない。兎に角、母の診察結果は他言無用にされていた。叔母も知らされていないし、ツェリや筆頭執事でさえ聞かされていない、とのことで。真相は不明だ。医者に聞けば分かるだろうが、口が堅い医者らしいから無理だろう。


 それにもう、母は他界している。


 私が留学を命じられ、出国する日の前夜。母は一度しか言わないから覚えておくように、と前置きした後で、自分が死んでも成人までは帰国するな。自分が死んだら当主の指輪と公爵当主が使う印璽はこの場所に隠す。成人したなら父親は追い出せ、ツェリと公爵家を頼む。と言った。

 余命宣告をされていたのか、違うのか。

 それは分からずとも、死を覚悟していたのだけは確かだったのだろう。死んだ後のことを聞かされた。父親を追い出した後は筆頭執事と共に公爵家を盛り立てるように、と。私はその全てを了承して翌日旅立った。父親は前夜も当日も居なかった。愛人のところに入り浸っていたからだ。私も父親扱いなど出来ないから都合が良かった。


 そして。

 隣国で一応学園生活を送りながらも、叔母と義叔父である隣国の王弟殿下に当主としての教育や執務や腹黒い古参の貴族当主達と渡り合うための技術や腹の探り合いまで、実践込みで鍛えられた。そんな中、母の訃報が伝えられた。叔母も義叔父も覚悟はしていたようだが、私に話す時は躊躇っていた。けれどもツェリと筆頭執事からの手紙でも母の様子は知らされていたし、訃報の知らせも私に直接来たから、大丈夫だと頷いた。それよりも問題は一人残されたツェリだ。


 あの父親は案の定、直ぐに愛人とその娘を公爵家に引き入れたらしい。

 おまけに、ただの代理だというのに、自分が公爵だと勘違いしているとか。

 隠しているつもりだったらしいが脇が甘い父親は、私が留学する前から母にも私にもツェリにも使用人達にも愛人と娘が居ることを知られていたことに気付いてなかったらしい。まぁ婿だというのに愛人を作っている時点で、思考がおかしい事は理解していたが。

 それでもまさか服喪期間を無視してさっさと引き入れるとは思いもよらなかった。さすがに帰国しようかと思っていたが、ツェリから「お兄様が成人するまでは決して帰って来ないで下さい」 と手紙を寄越されてしまえば、どうしようもなかった。成人する年の誕生日には生国の公爵家に到着出来るよう、そして直ぐに当主として動けるよう、今は力をつけておくべき、と判断した。どれだけ悔しくても。


 そして本日、ようやく帰国の旅路へ出られることになった。叔母と義叔父と二人の子……従兄弟達に挨拶をして、私は成長しただろうツェリに再会することに思いを馳せた。きっと母に似て美人に違いない。一人にしてしまったことを謝りたい。これからは寂しい思いなどさせない、と慰めたい。それに何より。


 ツェリを婚約者に取り込んで王太子の地位に着きたがっている第一王子と第二王子の争いに巻き込まれているツェリを守るのだ、と決めていた。第三王子は争いから一歩引いていると言うのは、義叔父の隣国王弟殿下の話。密偵を生国に放っていてツェリを獲得しようと争っているのが第一と第二。第三王子は自己主張もあまりしない穏和な性格で少々病弱だから一歩引いていると義叔父の話。ツェリの方が年上だが政略結婚なら年齢差は問題ない範囲だ。

 でも義叔父が言うには、第三王子が王太子の座に着くとしても、ツェリを望むことは無いだろう、と。

 確かにそう思う。何しろ筆頭侯爵家が第三王子の側にいる。我がデホタ家より家格は落ちてもあの侯爵家ならば充分後ろ盾になり得る。それに第三王子と筆頭侯爵家の令嬢は幼馴染で仲が良い、と義叔父の密偵から報告は受けた。それなら態々ツェリを婚約者にしようとは考えないだろう。


 だとするならば、やはり第一王子と第二王子だ。

 あの二人から何としてもツェリを守る。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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