プロローグ
モヤモヤエンド。
ハピエンではないです。
私が最後に見たのは、誰かに押された感覚と窓と雲一つ無い青空だった。
次の瞬間、背中と後頭部に激しい痛みを感じーー
何人かの男女の声と足音が聞こえて来た気がしたけれど、それが誰なのか全く分からないまま意識を失った。
「うっ……」
目が覚めて無意識に身体を動かしたと同時に背中や頭が痛む。一体どういう事なのかしら。
ボンヤリと視界に入るのは白い天井。
「気が付いた?」
突然の女性の声に驚いたらその声の主らしき人が視界に飛び込んで来た。……いえ、覗き込んで来たのかも、しれない。大人の女性。眼鏡をかけていてその眼鏡の奥の淡い緑の目が心配そうに見ている。目よりも濃い緑色の髪が見えたのと同時に、全体的な顔のパーツが理解出来て、目鼻立ちがクッキリした人だ、と知る。
「ええと」
「あなた、窓から落ちたのよ。身を乗り出したらしいわ。自殺を図ったわけじゃないんでしょうけれど、身を乗り出しては危ないわよ。気をつけて」
女性の話に、窓から落ちた事は理解したけれど。
抑々、私はどうして窓から身を乗り出したのでしょう。
というより……
「あの」
「なぁに? 頭が痛い?」
「それも有りますし、身体も痛みますが……。私は誰ですか?」
「……えっ?」
私が尋ねると女性は驚いて目を瞬かせた。
「あの、私はどこの誰なのでしょう?」
もう一度女性に尋ねれば、女性は顔色を真っ青にしながら、
「何も覚えていないの?」
と、尋ねます。ええ、なにも解りません。
肯定しますと、女性は「なんてこと……」 と呟きながら、ハッとした表情を浮かべました。
「そういえば、彼女は発見された時、仰向けでした。という事は……前から身を乗り出して落ちたのではなく、後ろから声を掛けられたか何かして、振り返ったところを突き落とされた……?」
ブツブツと呟く女性の言葉は私に届きませんでしたが、何やらとんでもない事が起きたようです。だって、女性の顔色は真っ青なままなんですから。
しかし、私は本当にどこの誰なのでしょう。
家族や友人は居るのでしょうか。
私はどんな人間なんでしょうかね。
「あれは一体、誰なのでしょうか……」
ポツリと溢した私。女性が、ハッと此方を見ます。
「何か覚えているの⁉︎」
「いいえ、私が覚えているのは、誰かに押された感覚。窓と雲一つ無い青空だけです」
女性は、息を呑んだ後、目を閉じてから、唇を舐めて私を見ました。
「今の話は、あなたが信じられる、と思う人だけに言いなさい。それまでは、私とあなたの2人だけの秘密にしましょう」
と、告げられました。
良く分かりませんが、頷きます。
ただ、私が信じられる、と思う人、という女性の言葉に、心が軋みました。
ーーお兄様だけだわ、そんなのーー
心が軋むと共に、私の脳裏にそんな言葉が浮かびます。どうやら私には兄が居るようです。
「あの」
「なに?」
「今、何故か、私の脳裏に、お兄様という単語が浮かびました。私に兄は居るのでしょうか」
私は解らないので目の前の女性に尋ねます。
女性は何かを思い出そうとしているのか、目を天井へ向けました。
「ああ、そういえば、あなたには他国に留学中の兄が居る、と聞いた事が有るわ。脳裏に浮かんだのなら、そのお兄様だけに今の話をした方がいいわね」
という事は、もし、私に両親や他の家族や友人が居ても、その他の人達は信じられない、と、私の知らない私は思っているのかもしれませんーー。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
記憶喪失モノを執筆してみたかっただけです。
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