憂鬱
ポタポタと雨が、屋根に打ち付けている。
3月になり、桜が満開だがこの雨でちりそうだ。窓から外を見ながら憂鬱な気分になった。
秀樹は父から受け継いだ小さな工場を経営していた。世間がコロナ不況と言われる中、何とか経営しているが決して楽な経営状態ではない。父親の放漫経営が発覚したのは、社長交代した後だった。何とか立て直そうと頑張っているときに緊急事態宣言が国から発令され、さらに苦境に立たされている。
「フー!」大きなため息がを一つ吐いて、気を取り直そうとしたが、心に使えるモヤモヤがとれるわけはない。
「おはようございます!」
社員たちが出社してきた。
「おはようございます。」と、秀樹も元気に挨拶を返す。空元気だが。
とにかく仕事を取らないと、売り上げが。でも、緊急事態宣言って仕事は止まるよな。先の展望が見えない恐怖からか、気が滅入っていた。
五十歳を手前にし、気力が落ちたのか。毎日に刺激がなく感じるが、持ち前の明るさで周囲の人間には、そのことを悟られないようにしている空元気で楽しそうにしている。いや、演じているだけなのだろう。
集金した小切手を、地元の取引銀行に持っていく。受付には、いつもの女性行員が挨拶してくる。秀樹は、みんなにあいさつしながら一人の行員に、つい一人の女性行員に目が行ってしまう。二村綾子である。和風の顔立ちの優しい目をしたふっくらとしたその女性は、秀樹のお気に入りであるが、まだ子供が小さく、仕事も定時より早く上がり、保育園に子供を迎えに行っている。夫は仕事を言い訳に、子育ての手伝いはしたがらない。そんな軽い雑談後、秀樹は周りの目を気にして、奥の融資係の担当者の方に歩いて行った。本当はもっと話したかったが、自分の気持ちを周りに知られるのは、この年になって格好悪く感じるし、倫理的にも手を出すことはできなかった。
倫理、社会的、そんなものが秀樹の行動を縛り付けてくる。自由って、結婚って。常識人が正しいという考えに支配されていることに矛盾は感じるが、、無いものねだりな気もしている。いや、年齢のせいにして、臆病な自分への言い訳だと言うことも秀樹は知っていた。
雨が余計に、憂鬱な気分に拍車をかけてくる。