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命にも まさりて惜しく あるものは
壬生忠岑
命にも まさりて惜しく あるものは 見果てぬ夢の さむるなりけり
(巻第十二恋歌二609)
この命より惜しいと思うのは、見果てぬ夢が覚めてしまうことなのです。
忠岑集の詞書として、
「昔、ものなど言ひ侍りし女の亡くなりしが、夢に暁がたに見えて侍りしを、 え見はてで覚め侍りにしかば」とある。
つまり昔の恋人(実際は故人)が夜明け頃の夢に現れた。
そこで逢瀬をしたけれど、目覚めてしまえば、恋人は当然いない。
そんな夢ならずっと見ていたいし覚めて欲しくない。
その思いが強かったのだと思う。




