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君恋ふる 涙しなくは 唐衣
紀貫之
君恋ふる 涙しなくは 唐衣 胸のあたりは 色もえなまし
(巻第十二恋歌二572)
※唐衣:中国から舶来した着物、この歌では着物の意味。
貴方を恋して流す涙がなければ、唐衣の胸のあたりは、(恋の火で)赤く燃え上がってしまうでしょう。
流す涙で、恋の思いの火を消す。
そうでもしなければ、胸にこみあげて来る熱い思いの火は、消しようがない。
現代日本語でも、「恋の炎」とか、「恋い焦がれる」などの表現がある。
それを意識すると、この歌も理解しやすい。