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思ふとも 恋ふともあはむ ものなれや
よみびとしらず
思ふとも 恋ふともあはむ ものなれや ゆふてもたゆく とくる下紐
(巻第十一恋歌上507)
※ゆふてもたゆく:結ぶ手が疲れるほど。
※下紐:下袴や下裳の紐。着衣の表から見えない紐。
どれほど思っても、恋慕っても逢えないのに、結びなおす手が疲れるほどに、下紐が何度も解けてしまうのです。
古代、下紐が解けるのは、恋人に逢える前兆と信じられていた。
ただし、何度も解けても、逢えないのだから、そんなことは信じられない。
実際は、故意に緩く結んでおいて解けてしまう、そして逢瀬を期待する。
作者には、そんな意図があったのかもしれない。
結局、それでも逢えないのだから、自分自身の行為の愚かさや情けなさを感じてしまう、そんな悲哀を感じる歌である。