いとせめて 恋しき時は むば玉の
小野小町
いとせめて 恋しき時は むば玉の 夜の衣を 返してぞ着る
(巻第十三恋歌二554)
※むば玉の:夜にかかる枕詞。
貴方を恋しくて仕方がない時は、夜の着物を裏返しにして、眠るのです。
小野小町の在世時、夜着を裏返しに着て眠ると、恋人が夢に出て来るとの俗信があったらしい。
「思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを」
「 うたたねに 恋しき人を 見てしより 夢てふものは たのみそめてき」
に続く、恋と夢の歌になる。
まず、恋人を思いながら眠ったら恋人が夢に現れ、夢から覚めた後に、何故覚めたのかと悔いる。
その次に、うたた寝の夢に恋人が現れたので、現実では逢瀬が難しいことから、夢で逢うことを頼るようになる。
しかし、その夢でも、なかなか恋人が現れないのか、今度は俗信に頼り、夜着を裏返しに着て眠り、少しでも夢の中に恋人が現れやすいように、努力する。
さて、裏返しに着た衣は、直接、絶世の美女小野小町の素肌を包む。
この歌に、妖艶な魅力を感じた人も多かったのではないだろうか。