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あはれてふ ことだになくは なにをかは
よみびとしらず
あはれてふ ことだになくは なにをかは 恋の乱れの つかねをにせむ
(巻第十一恋歌一502)
※つかねを:物を束ねる紐。
仮に「あはれ」との言葉さえもなかったとしたら、何をして恋に乱れる心を束ねる紐にできるのでしょうか。
この歌から、連想するのは「源氏物語柏木」。
柏木は女三宮と密通、それが光源氏に発覚し、睨まれ苦悩に沈み、死まで願うようになる。
しかも、女三宮からは無視状態が続く。
それでも諦めきれない柏木から女三宮に手紙を書く、その文の中に
「 あはれとだにのたまはせよ。心のどめて、 人やりならぬ闇に惑はむ道の光にもしはべらむ」
「あはれである」とだけでもおっしゃってください。そのお言葉だけで心をしずめ、自ら入り込んだ暗い闇やみの世界を歩く道の光にもいたしましょう。
紫式部も、この歌を知っていたと思うので、おそらくこの歌が柏木の言葉のイメージなのだと解釈している。