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白雲の 八重にかさなる をちにても
みちのくにへまかりける人によみてつかはしける
紀貫之
白雲の 八重にかさなる をちにても 思はむ人に 心へだつな
(巻第八離別歌380)
※白雲:離別歌では、隔てる距離の長さをあらわす。
※八重:「八」は数が多いこと。
※をち:遠方の地。
陸奥国に下向する人に詠んで贈る。
白雲が幾重にも重なるような、果てしない遠い国であっても、貴方を慕う私の心と、心を隔てないで欲しいのです。
現代のような交通機関が発達していない時代、京都から陸奥へと、距離が離れれば、相当なもの。
せめて、心だけでも隔てないで欲しい、私もあなたのことを思い続けるから、貴方も私のことを忘れないで欲しいと詠む。
貫之らしい、全く無駄がない名歌と思う。