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唐衣 たつ日は聞かじ 朝露の
よみびとしらず
唐衣 たつ日は聞かじ 朝露の 置きてしゆけば けぬべきものを
(巻第八離別歌375)
※唐衣:「たつ」にかかる枕詞。
あなたが出発なさる日は、聞きません。
あなたは、私を置き去りにするのですから、私は朝露のように貴方の心からも消えてしまうのです。
尚、この歌の左注としては、
「このうたは、ある人、つかさをたまはりて新しきめにつきて、年へてすみける人を捨てて、ただ、あすなむたつ、とばかりいへりけるときにともかうもいはでよみてつかはしける」
(この歌は、ある人が官職につき新しい妻を娶り、長年一緒に住んだ女性を捨てて、ただ 「明日出て行くから」とだけ言った時に、文句を言わずに詠んで渡した)
が書かれているけれど、歌物語的な関心から後日、付加されたとものとされている。
ただ、そこまで付加しなくても、置き去りにされた女性の悲しみは、充分に伝わって来る歌と思う。