56/289
秋風に 声を帆にあげて くる舟は
藤原菅根
秋風に 声を帆にあげて くる舟は 天の門渡る 雁にぞありける
(巻第四秋歌上212)
秋風をしっかりと受け、その帆を高くあげて来る舟は、天の川を渡る雁でありました。
情景としては、空高く雁が声をあげて列をなし、飛んでいるだけ。
しかし、この歌では、何とも雄大な情景に変わる。
これが言葉の力、歌の力なのだと思う。
藤原菅根(855~908)は藤原南家。
菅原道真の弟子で、文章博士になった漢学者。
しかし、藤原家の圧力を受けたのか、901年の菅原道真の左遷を諫止しようとした宇多上皇を阻止し、この責を負って大宰大弐に左遷。
直後に許されて蔵人頭に復職し、式部少輔に再任された。
その後、延喜五年(905)、藤原時平のもとで『延喜式』編纂を命ぜられる。
同八年正月、参議に出世。
同年十月七日、五十三歳で卒去し、従三位を賜る。
その死は道真の祟りと、噂になった。
古今和歌集に採られているのはこの一首のみ。




