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夢とこそ 言ふべかりけれ 世の中に
あひ知りける人の身まかりにければよめる
紀貫之
夢とこそ 言ふべかりけれ 世の中に うつつあるものと 思ひけるかな
(巻第十六哀傷歌834)
お互いによく知り合った人が、お亡くなりとなり、詠みました。
あなたとの今までのお付き合いは、夢とだけ、言うべきであったのです。
それなのに、この世の中の、確かな現実であるなどと、愚かにも思い込んでいたのです。
少々、意訳を施してみた。
とにかく、お互いに気持ちを知り合った故人との交流は、紀貫之にとって、本当に確かな価値のあるものだった。
しかし、それが「死」と言う断絶により、儚い夢のように消えてしまった。
いや、今までの楽しい思い出など、夢としか言いようがない。
そして、そもそも、この世の中に、確かなものがあるなどと、愚かにも思い込んでいたと嘆く。
尚、この歌の背景として、般若心経の色即是空がある、と分析する学者もいる。