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世の中は かくこそありけれ 吹く風の
紀貫之
世の中は かくこそありけれ 吹く風の 目に見ぬ人も 恋しかりけり
人の世は、このように、あてにならないものであったのです。
吹く風と同じで、もはや見ることが出来なくなった人を、恋しく思うのですから。
さて、「見ぬ人」を逢ってもいない人、風のうわさで聞いただけで見たこともない人とする解釈もあるけれど、その場合、「世の中は かくこそありけれ」の否定的、自嘲的な雰囲気には馴染まない。
やはりまだ見てもいない人(逢瀬を果たしてもいない人)よりも、一度は見ることが出来た(逢瀬が出来た)人が、吹き過ぎて行った風のように二度と思いが叶わなくなる、そのほうが自嘲や悔恨の思いが強くなるのではないか。
自分よりも魅力のある、しかも身分が上の人に、恋人を取られ、しかもなお、諦めきれない、宮廷社会では身分が低く終わった貫之の嘆きを、この歌に感じている。