つつめども 袖にたまらぬ 白玉は
しもついづも寺に人のわざしける日、真せい法師の導師にていへりけることばを歌によみて、小野の小町がもとにつかはしける
※しもついづも寺:所在未詳。
※人のわざ:追善法要。
※真せい法師:生没年は不詳。
※いへりけることば:法華経から。ある人が友人の好意で衣の裏に付けられていた「無価の宝珠」になかなか気づかず、貧乏になった。その後、人に教えられてようやく気がついたという話とされている、
安倍清行
つつめども 袖にたまらぬ 白玉は 人を見ぬ目の 涙なりけり
(巻第十二恋歌二556)
返し
小野小町
おろかなる 涙ぞ袖に 玉はなす 我はせきあへず たぎつ瀬なれば
(巻第十二恋歌二557)
今日の法師のお話とは違って、包んでも袖に残らずこぼれてしまう白玉は、あなたに拒まれる私の涙なのです。
そんな、あやふやな涙だから、袖の上で白玉になる程度なのです。
私は涙が激しくて止まりません。
小野小町は、安部清行と恋愛関係ではなく、その身を慎むべき追善法要で恋愛じみた歌を贈って来たことを、たしなめたとされている。