たれこめて 春のゆくへも しらぬまに
心地そこなひてわづらひける時に、風にあたらじととて、おろしこめてのみ侍りけるあひだに、をれるさくらのちりがたになれりけるを見てよめる
藤原よるかの朝臣
※藤原よるか:藤原因香。清和、宇多、醍醐天皇御代に典侍。所収四首。
たれこめて 春のゆくへも しらぬまに まちし桜も うつろひにけり
(巻第十一春歌下80)
体調を崩して弱っていた時に、風には直接あたってはならないと、簾を下げて引き籠っていたら、折り取って花瓶にさしてあった桜の花が散りそうになっているのを見て、詠んだ歌。
部屋の中に閉じこもって、過ぎ去る春を知ることもなく、心待ちにしていた桜も、散ってしまったのです。
「まちし桜」は、本心は満開の桜を見ることを、ずっと待っていたという意味。
しかし、体調を崩し、風にもあたれないのだから、それもままならない。
折り取って部屋の花瓶に挿してあった桜が散りそうな様子を見て、外の桜も散ると諦める、そんな残念な思いを詠む。
尚、徒然草第百三十七段に、
「雨に向かひて月を恋ひ、たれこめて春のゆくへをしらぬも、なほあはれに情け深し」として、引用されている。




