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憂いの実写化妨害大作戦~僕の前世は小説の主人公でしたが、今は普通に暮らしたい~

あのとき、命の火は消え、僕の物語(じんせい)は終わったはずだった。

けれど、使命を全うしたはずの僕に新しい舞台(せかい)が待ち受けているとは思いもよらなかった。



 『ブライト・ライト』という超人気小説の実写化にエキストラとして出ることになった大和と北斗。実は実写化反対派の兄達から撮影を妨害しろという無茶振りミッションを課せられていた。

 そんな双子の片割れ、大和には家族に言えていない秘密があった。実はその『ブライト・ライト』の主人公、『カイン・ブライト』の記憶を持って生まれてきた転生者だった。

 大和は複雑な気持ちを抱えたまま撮影に参加するが、双子の関わらないところで次々と怪現象が起きていき……。

「ありえないありえないありえなーい!俺は死んでも信じないぞー! 」

「銀河、朝からうるさい。近所からまたクレームが来ても、僕はもう対応しないよ」


 8つ離れた次兄、銀河が朝から携帯電話を握りしめて騒ぐのはいつものこと。一応毎回反省はしているようだけど、すぐ頭から抜けるようで、今日も性懲りもなく大声で喚いていた。


「これをみても騒ぐなと言えるか? 」


 銀河はそう言うと、グイッと携帯電話を顔面にくっつきそうなくらい近づけてきた。


「いや、見えないんだけど」

「映像化は不可能と言われていたあのファンタジー超大作『ブライト・ライト』の劇場製作が決定してしまったんだぁぁぁ!! 」


 銀河の耳に僕の訴えは入ってこなかったらしく、僕の顔に携帯電話を押し付けたまま、ペラペラと早口で話し、いや、叫んでいた。僕は呆れつつも、目の前の携帯電話をどかし、銀河の話に渋々付き合うことにした。


「え、良かったんじゃないの?一度は映像化したもの見たいって言ってたじゃん」

「いや、馬鹿っ。俺が見たかったのはアニメーションであって、今回発表されてしまったのは実写だ!そう、実写化だ。俺はこんなのは望んでねぇーんだ!いや、そもそも、10年前に亡くなられた諏訪 千秋先生もこんなの望んでなかったはずだ! 」


 人気長編ファンタジー小説の実写化。映画好きの長兄・月光なら、また人気原作の実写化かと色々文句を言い出してもおかしくはないのだが、原作の大ファンってだけである銀河がこんなにも荒れているのに疑問を持った。


「他に何かあったの? 」

「監督、脚本、主演が発表されたんだが、俺は絶対許さない」

「何が許せないの? 」

「監督と脚本が右山 空才っていう原作クラッシャーって呼ばれてる人で、また、主演が吾妻 朝日っていう最近売れてるってだけのイケメンモデルで、今回の映画が初主演、初演技らしいよ」


 言いたいことだけ言っている銀河とはもう会話できないなと思っていたら、僕の双子の弟・北斗が補足してくれた。というか、ソファで見えてなくって気付かなかったが、ずっとリビングにいたなら、もっと早く助けて欲しかった。


「吾妻 朝日って、あのジャックオフィスの?確かにかっこいいけど、たしか『ブライト・ライト』の」

「そうなんだよ!クールな主人公のイメージと違うんだよ!いや、そもそも、世界観が違うんだよ!魔法がある異世界が舞台なんだ。それにただのファンタジーじゃない、深い人間ドラマと、あの手に汗握るバトル。文章だけであんなにも俺を夢中にさせたあの神作品!それなのに、なんで、よりによって、右山 空才…… 」


 折角話に付き合ってあげているのに、コチラの言葉を遮り、言いたいことをひたすら主張するだけして、まともに会話をしてくれない銀河のほうが僕的にはありえない。そっと北斗のほうをみると、呆れた顔して、こうなってしまった理由を教えてくれた。


「前、銀河兄ちゃんが大好きだったアニメの実写化したときの監督もその右山って人だったらしいんだけど、凄まじい設定改変に、中身すっからかんなオリジナルストーリー、ただ使えば豪華に見えると思ってるのか無駄に多いCGシーン、人気キャラはとりあえず出せばいいだろうと強引なストーリー展開の結果、クソエンドで胸糞だったらしいよ」

「あー、もしかして、『アサドの夢』とかいう」

「そう、それ。結局続編作られることは免れたみたいだけど、あれから、銀河兄ちゃんはアンチ右山だよ」


 北斗からの情報に僕は納得した。『アサドの夢』は、銀河という人間を作り上げたといっても過言ではない。銀河は小さい頃からそのアニメ全52話を幾万回と見ていて、台詞も全て一語一句間違えることなく覚えており、僕ら双子を目の前によくシーン再現を何百回と演じていた。お小遣いやお年玉でコツコツと『アサドの夢』のグッズを収集していたのも知っている。それだけ思い入れのある作品だ。めちゃくちゃにされて相当恨んでいるようだから、今回も同じことが起きるんじゃないかと危惧している兄の気持ちは分からなくはない。


「っていうかさ、なんで、大和は冷静なんだよ。お前、昔、『これは僕のだ』とか、『僕がカインなんだ』とか騒いでた時期があったじゃないか」


 確かに、初めて『ブライト・ライト』を読み聞かせてもらったとき、僕は思わずそう口走ってしまったことがある。けれど、それはもう5年も前の話だ。


「あのときは、その、子供だったから…… 」

「いや、まだガキだろ」

「朝からわーわー騒ぐ銀河兄ちゃんに比べたら、大和の方が精神的には大人だと思うけど? 」

「お前ら双子は可愛くないなぁ。なんでこうなっちゃったんだ」 


 ――お前ら双子は可愛くない

 そんな銀河の言葉に心がズキンと痛んだ。北斗がこんな風になってしまったのは、僕のせいではないかと少し思っているからだ。


「それより、大和。そろそろ朝ごはん食べたほうがいいんじゃない?今日、朝練の日でしょ? 」

「あ、そうだね、北斗ありがとう」


 北斗に促され、いつの間にか焼きあがっているトーストを食べ始めた。バターがいい感じに染み込んでいて美味しい。


「ちょ、可愛くないって言ったのが気に障った?お前らは可愛いよ!それぞれ個性があって素敵だぞ!ねぇ、無視しないで!お兄ちゃんの話に、もうちょっとだけ付き合ってよ! 」 


 正直、もう、この件に関して付き合いたくはない。何故なら、僕は志賀 大和として生まれる前、『カイン・ブライト』という男としての人生を全うし、その記憶を持ったまま、今ココにいるだから。そう、僕は『ブライト・ライト』の主人公、『カイン・ブライト』の生まれ変わりなのだ。


 ()()()()、魔王を滅ぼす為、自らの命を対価に禁忌の魔術を使用し、この命は尽きたはずだった。けれど、もう二度と開くことのなかったはずの目に飛び込んできたのは、今までの常識を覆す、初めての景色。魔法も魔物もない、全く知らない世界だった。


 そんな世界で生まれて、しばらくして、『カイン・ブライト』という人間が、ここではファンタジー小説のキャラクターだと知ったときは混乱した。自分は空想上の存在だったのかと。

 しかし、意外と立ち直りは早かった。もう僕は『カイン・ブライト』ではないと改めて実感したからだ。神からのお告げによって与えられた勇者として生きる使命、みんなの期待にこたえ、本当は臆病でこわがりな素を隠して、ただ魔王を倒すことにだけに専念し、独り修行の旅を続けなきゃならなかったあの時とは違う新たな人生。魔法がないのは不便だけど、前と違って恋愛も交友関係も自由にしていいのだ。そう考えたら、前世がどうとか、もうどうでも良くなっている僕がいた。


「あぁ、まだ大和も北斗も家にいたか。よかった、助かったぁ」


 寝癖のついた頭をボリボリとかきながら、月光兄さんがリビングにやってきた。


「月光兄ちゃんが水曜日なのにこの時間に起きてくるなんて珍しいね。なんか僕らに用? 」

「あぁ、二人にお願いがあってね。今度の休みのとき、エキストラに行ってきてほしいんだ」


 月光兄さんは大学で映画研究会というサークルに入っていて、時折、そのお手伝いを僕達はしていた。今回も、その類だと僕は思い込んでいた。


「僕はいいよ。大会には出る予定もないし、まだ友達と遊ぶ約束もしてないし…… 」

「ちょっと待って、大和。月光兄ちゃんのお願い、おかしくない?いつもなら『来てほしい』っていうのに、『行ってきてほしい』って。どこのエキストラに僕達、行かなくちゃいけないの? 」


 北斗の指摘にハッとなった。ふと月光兄さんを見れば、ニヤニヤと笑っていた。


「いや、前に二人に出てもらった映画研の作品を見たっていう業界の方からお話をいただいてね。最初は断ろうかと思ったんだけど、いっそのこと利用してやろうと思ってね」

「ちょっと待って。業界の人からってすごいのに何で断ろうとしたの?『利用してやろう』ってどういうこと? 」

「銀河も聞いてくれ。クソ右山から『ブライト・ライト』エキストラ出演のオファーが双子に来た。大変腹立たしいが、逆にチャンスだ。大和、北斗、さりげなく妨害して来い! 」


 僕はブンブンと首を振った。北斗は月光兄さんのまさかの発言に呆然としていた。しかし、銀河はキラキラと目を輝かせていた。


「月光にぃ!名案じゃん!まぁ、クソ野郎からの直々の出演オファーなら切りづらいだろうしな!お前ら頭いいし、頑張れば劇場化中止に追い込めるんじゃね? 」

「ちょ、ちょ、ちょ、僕達に何をやらせようとしてるの!撮影妨害とか子供にやらせないでよ!中止に追い込むとかって物騒すぎるし!ね、北斗も何か言ってよ! 」

「……まぁ、少しスリルを味わうのもいいかもね。いいよ、月光兄ちゃんや銀河兄ちゃんの期待にこたえられるか分からないけど、頑張ってみるよ」


 笑顔で北斗と月光兄さんが熱い握手を交わしていた。駄目だ、北斗まであっち側についてしまったら僕だけではどうにでもならない。


「じゃあ、エキストラの件、よろしくね。送迎は俺がするから 」

「分かったよ、月光兄ちゃん。さて、大和、朝練もう行かないと遅刻するんじゃない? 」


 気付けば時計は7時15分を指していた。本当はエキストラの件に関して言いたいことが沢山あるのだけれども、北斗もやる気になっているし時間もないので仕方がない。前世の僕が主人公の作品に、今の僕がエキストラとして出るなんて、少しもやもやを抱えつつ僕は学校へと慌てて向かったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 現実から創作物への転生はよくありますが、創作物から現実、というのは斬新だな、と感じました そのゆえに主人公がなんらかの精神疾患というエンドも思いついてしまいました それくらい振り幅広くとれ…
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