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BLAST!!  作者: OZMN
8/8

急変


地面の中に、意識が吸い込まれていくようだった。


銃の音と、人の叫ぶ声がした。


同時に、体の中に芽生える、熱く、滾るもの。


赤く脈動し、凶悪なほどに、早鐘を打つ。


…どうした、死にたいのか?


立ち上がれない自分を笑って、自問した。


だが、これ以上どうしろと言うのだろう。


倒れた体は、一向に動く気配はない。


どれだけ、腕や足に力を入れても、動くように命じても、微動だにしなかった。


どこかでリズの叫ぶ声が聞こえた。


…クソ。あいつら、何をやってるんだ。


これだけ人がいて、何故彼女一人守れないのだろう。


俺自身もそうだ。


なぜ、こんなところで倒れているのだろう。


自分はいつも助けられてばかりで、なにか、彼女にもたらすことができたのだろうか。


いや、それ以上に。


…なんで、こんな時に、俺はここに倒れている?


言いようのない怒りを覚えていた。


同時に、耐えようのない破壊衝動も。


何かを思うがままに破壊したくて仕方がなかった。


赤い脈動は、彼を支配する。


ドクドクと、人の物ではない脈動を、その手に足に、流し込んでいく。


身体中が熱くなって、力に満たされていた。


瞼が動いて、ゆっくりと瞳を開く。


意識は何かに乗っ取られたように、うつろとしていた。






”バスター”が来るまでの間、カーライルたちは持ちこたえなければならなかった。


だが、想像以上に”ファントム”の凶暴性は高かった。


巨大な体躯を、植物のような触手で持ち上げ、いとも簡単に、小隊の防衛線をまたいでいく。


市街地に侵入され、空軍も要請する事態になったが、事態は好転しなかった。


「一体何をやっとるんだあの者は!!いくらなんでも到着が遅すぎる!!」


ついに自分も銃をとり、応戦に入ったカーライルだったが、攻撃の甲斐はほとんどなかった。


戦車まで出撃する事態になったが、攻撃態勢に入ったまま、動く気配はない。


砲撃手が死んだか、反撃を恐れてかのことか、分からなかったが、どうせ利き目はないので、カーライルにはどうでも良かった。


そんな折、報らされる、最悪な情報。


「総司令。妹さんを乗せたジープが…」


聞いた瞬間に、カーライルは、自分も助手席に飛び乗っていた。


「急げ!」


まだ、いかほども離れていないはずだ。


いまから助けに向かえば、少なくとも、彼女の命だけは、助かるかもしれない。


だが…。


次々と出現する、プレイヤー型の”ファントム”に、住民は捕らわれ、殺されていく。


同時にトール型の”ファントム”は頭上から、兵士たちを、いとも簡単に、吹き飛ばして行く。


防衛形態は崩され、各個は孤立し、前後を”ファントム”にとられる。


それは、カーライルの率いる小隊も例外なかった。


地中から突きだした巨大な根を、絶妙なハンドライドでかわす。


だが、次に来る衝撃は別だった。


揺らいだ車体に、もう一撃、根が襲いかかる。


横転し、余儀なく外へ出ると、回りは囲まれていた。


立ち上ぼる砂煙の中、プレイヤー型の"ファントム"が、退路を塞ぐように、ゆらゆら体を揺らせているのが見えた。


バキバキとコンクリートの地面はひび割れ、時折、枝分かれした触手の色が見える。


「これまでかしらね。総指令」


グロリアが渇いた笑いで言う。


万事休す。


死を覚悟した、その時だった。


『こちらチームブラボー!!

現在、プレイヤー型と交戦中に、正体不明の…あれは…人…か?

分かりませんが、とにかく正体不明の存在が、”ファントム”を妨害しています!!』


「なにそれ…」


わけのわからない、無線越しの報告に、グロリアが”ファントム”を銃撃しながら言う。


「”バスター”ではないのか?」


『…はい。あれは…おそらく…そんな類いのものじゃ…。』


「じゃあ、”ファントム”?」


グロリアの問いかけの直後だった。


耳を突ん裂くような爆音と共に、すぐ正面のビルが吹き飛んだ。


”ファントム”が瓦礫と共に吹っ飛ばされる。


破壊されて出来たビルの大穴から現れた姿に、カーライルは目を疑った。


「……ウェイン?」


それは間違いなくウェインだった。


体の所々は、見たことのある、マグマのような色にひび割れている。


千切れてなくなったはずの腕は、再生していた。


訳が分からず呆然としていた。


生きていたのか?いや、だとしても何故立って動ける?


もう二度と立ち上がれないだろう、致命傷を負ったウェインを、カーライルは視認していた。


まさか何かの奇跡で死者が蘇ったとでも言うのか。


例えそうだとしても、カーライルは彼の復活を喜べなかった。


たった今、ビルの壁を吹き飛ばし、好戦的に笑む姿は、カーライルのよく知っているウェインとはかけ離れていた。


彼の背後で、ビルがゆっくりと倒れていく。


あまりの衝撃に、建物の基盤が損壊したのだろう。


カーライルは姿勢を低くして、衝撃と瓦礫から身を守った。


ウェインは、彼の方を一度見たものの、特に関心を持たなかった。


周辺の"ファントム"の存在に気付いて、にやりと笑う。


それから、地を蹴って飛び上がった。


信じられないほど、高い跳躍だった。


彼は傘型の胴体に飛び乗るなり、巨大な目玉に拳を突っ込んで、中の臓物を引っ張り出した。


"ファントム"は奇声をあげながら、ウェインの方へ触手を伸ばしたが、彼は簡単に、その触手を掴み上げた。


ウェインが引っ張りあげると、まるで抵抗なく、触手は引きちぎれる。


蹴り上げた衝撃で、核が飛沫を上げて弾ける。


その個体が地面に倒れる直前に、ウェインは別の個体に狙いをつけていた。


再び跳躍。


今度は傘型の胴体を引っ付かんで、惰性で落下する勢いに任せて、地面に叩きつける。


天高々と頭上を取って、踵を振り下ろすと、彼の足下の"ファントム"は、風船のように爆裂して四散した。


これを潔しとしなかったのか、周辺にいたプレイヤー型の"ファントム"が、ウェインに向かってくる。


途方もない数だが、ウェインは笑っていた。


臆することなく向かって、強く地を蹴った。


あとは凄惨なものだった。


殴り、バラし、引き剥がし、暴き、毟る。


マグマ色の体液が迸り、滴り、飛び散る。


あまりにも圧倒的過ぎた。


"バスター"など、足下にも及ばない。


もはや、人間に為し得る所業ではなかった。


恐れるべきなのは、敢えて、核を真っ先に潰さないこと。


体の一部を失い、苦しむように奇声をあげる異形を見下ろして、笑っている。


まるで遊んでいるかのようだった。


不意に、地面から突きだした無数の触手が、ウェインの体を貫く。


「…!おい!」


だが、カーライルは要らぬ心配をしただけだった。


血を吐いたものの、その表情は、やはり優位そうに笑っていた。



…そんなものか?



低く、くぐもったような声が聞こえ、鳥肌が立った。


人間じみてさえいなかった。


怒りと殺意だけを持った声だった。


ウェインは、自分の体を貫く触手を引っ掴み、ぶちぶちと力任せに引き抜いた。


肉や血管が、枝分かれした触手に絡まって引き摺りだされたが、ウェインは痛みを感じていないようだった。


両の手で、地面に這っている、太い触手を掴み、勢いをつけて引き抜く。


植物で言う側根に当たるそれを地中から暴き、肩に担ぐようにして、力をかけた。


ぶち、と鈍く、生々しい音を伴って、上空に聳えていた根の塊から、一本引きちぎれる。


直後、大地が震えた。


建物の窓ガラスが割れ、瓦礫が雨のように降ってくる。


「指令!!」


グロリアが声を上げて促す。


彼女の手招きに従って、無人の装甲車に向かった。


振動は続いている。


それは超音波に近かったが、カーライルには、何が起きているか分かった。


悲鳴だ。


「ウェイン!!」


ふと思い立って、カーライルは、ウェインに投げ掛ける。


期待はしなかったが、予想外に、ウェインは、カーライルの呼ぶ声に、確かに反応を示した。


だから、期待を、僅かばかり余計に持ってしまった。


カーライルは、自分たちの進行方向を指差して


「リズが危ない」


皆まで言わずとも、彼がウェイン自身なら、するべきことは分かるはずだ。


ウェインは数秒、カーライルを見つめ返していたが、次の瞬間には、指した方向に向かっていった。


それを見送ってから、装甲車に乗り込む。


「アレ、あなたの言葉を理解したの?」


「分からん。今は急ぐぞ」


副操縦席のグロリアに返しながら、クラッチ繋ぐ。


今のウェインを"アレ"と表現したグロリアの言葉を、何の気なしに流せたのは、少なからず、カーライルも、同じように思っているからかもしれなかった。




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