危機
”ファントム”の唯一の対抗策となる”バスター”は、現在、大きな問題に衝突していた。
その、最も大きな理由は、奇しくも”ファントム”の発生に関わっていた。
「…ここ10年もの間、世界中、どこを探しても”ファントム”の存在は確認されていない。
市民は、未だ横柄な態度をとる”バスター”の存在に疑問を抱いているようだ。
…なぁ、カーライル」
”バスター”の総司令官であるクリスチャン・カーライルは、眉をひそめる。
「それは、まるで”バスター”の存在を問う疑問に聞こえます」
「それはそうだ。そのように聞こえるように言ったのだから。
…正直、我々は”バスター”の存在に対して、大きな不信感を募らせている。」
「何をバカなことを…」
”ファントム”の存在は、大きな脅威となり、その根絶のため、連盟が設けられている。
”バスター”は国際連盟を介し、各国への”ファントム”対策となってはいるが、10年間にも及ぶ、実質的な活動の停止により、連盟は不信任案を提出してきた。
その頭目とも言える男、とある国の軍事責任者であるサイクスは言い放った。
「君の不安は良く分かるが、”バスター”という組織を維持するのにも、莫大な予算がかかる。
このまま何もしない連中に、大金を組む程の余裕は各国にはないのだよ。
わが国も含めてね」
同感だと言う風に、別の国の責任者であるオットーが頷いた。
「いかにも。
それにな、10年も音沙汰がないんだ。
もう、”ファントム”は根絶したのではないかね?
我々の意図しない、地殻変動や、シャインフレア、環境汚染の類によって」
「何を、悠長なことを…!」
この、すっかり平和ボケした老人どもの考えに、カーライルは我慢ならなかった。
声を荒らげて言う。
「10年がなんです!我々はこれまでの自然災害を見て、教訓にしたはずです!
歴史的な大地震や、大噴火が、5年や10年の規模で起こりますか?!
以前、氷河期が訪れたのは?!
いかなる状況にあっても、災害の脅威に対抗しうる手段を持たなければ、根絶するのは我々のほうだ!!」
会議室に沈黙が降りる。
ため息を吐いた男は、侮蔑の眼差しを送った。
「話にならないな。君の意見はもう関係ないのだよ。
”バスター”の解散は、先日の委員会で決まっている」
「…なんだと?!」
カーライルの声に、冷笑さえわき上がった。
「来週には、各国首脳もメディアを通じて、高らかに報じるだろう。
”ファントム”の根絶は確定し、”バスター”の存在も、この世から消える。」
安全を軽んじる、ごうとつ張りの顔が、醜く歪んだ。
「つまり、君は、クビだよ。クリス」
指令室に戻ると、側近の部下である、グロリアが気付いて肩を並べてきた。
「いかがでしたか?今日の会議は」
「ああ、最悪だったよ。本当に、奴らはなにも分かっていない」
「クビでも言い渡されました?」
「もっと悪い。”バスター”を解散させると。来週には、各国首脳を通じて、全世界へ通達するらしい」
グロリアは鼻で笑った。
「資本主義の悪徳国家が考えそうなことだわ。
そう言う時に限って、あとで泣きをみるって言うのに」
「全くだ。
このままでは、いずれ来る脅威への対抗策が永遠に失われる羽目になる」
巨大なモニターの前の操作盤にかじりついていた部下が、ある異常に気付いて注意を促す。
グロリアはその言葉の意味をとりかねていたが、ようやく理解した。
「ええ。そうね…。」
モニターに映った棒グラフは、危険な数値を示していた。
それが、近い未来に、必ず、恐ろしい事態を起すことを、示唆しているようだった。




