ファントム
学生の頃に、思い付いたお語です。
とにかく、簡潔に、小気味良くを念頭に書き下ろしました。
一人でも多くの人に読んで貰えたなら、感激の極みです。
”ファントム”
それは幻影を意味する言葉。
しかし、本来のその言葉の意味など、日常生活の上では何の意味も持たないものだ。
最初に”ファントム”が出現したのは、水深1000メートルの深海だった。
巨大イカの観測に来ていた潜水艇が発見したらしい。
その”ファントム”は、光る核を持つ、巨大なウツボのような姿をしていた。
観測チームは潜水艇ごと消失。
捜索隊により回収された記録媒体から、”ファントム”の存在は確認された。
この事件を皮切りに、”ファントム”は世界各地に姿を現すようになった。
ある時は、上空に、羽のついた形で、ある時は、砂丘の中に、尾ひれのついた形で、ある時は、都市の真っただ中に、節足動物様の姿で、出現、もとい、発生した。
”ファントム”は人類に対して、異常なまでの敵意を持っていた。
土地や建造物を破壊し、逃げ惑う人々を、取って噛み砕いた。
”ファントム”が生物兵器や巨大生命体ではなく、災害と認定されたのには、大きな理由があった。
”ファントム”は地球上の生物とは大きくかけ離れた特性を持っていた。
砲撃や空爆を用いても、その外皮にすら傷をつけることは叶わず、多くの軍事攻撃を無効化したのだ。
これにより、政府は”ファントム”への攻撃を諦め、人類補完計画を推し進めた。
…だが、それは、殺し方の確立されていない、当時の話だ。
多くの試行錯誤と研究の末に、”ファントム”の脅威は滞った。
それは、適性を持った人間による駆逐に他ならなかった。
世界中の人間の細胞が調べられ、政府は、”ファントム”に対抗する特殊部隊”バスター”を設立。
”バスター”に選ばれた者は、生活面での様々な優遇を受ける代わりに、”ファントム”が発生した際には、なによりも優先して、その排除、鎮静化に努めなければならなかった。
それが、選ばれた人間である”バスター”の産まれながらにしての義務であり、使命であると言えるだろう。
少なくとも、それ以外の一般の市民は、そうであると、当然のように思っていた。
自分の血の色を受け入れるように…。