閑話 騎士の日記
これは昔の話であり、一人の少女を綴った日記である。
最初に書くのはやはりお嬢さんの誕生からです。
お嬢様が産声を上げた日のことは今でも、鮮明に覚えています。仲間たちと共に剣を振り技を鍛えていたあの時、私は不覚にも一本取られてしまいました。
試合中であるにも関わらず、その声を聞いて、笑みをこぼしてしまったんです。
勿論、試合には勝ちましたよ。一応この領内では最強を背負っていますので、簡単に負けるわけには行きません。
お嬢様が生まれになって7カ月のことです。
今日も今日とて皆の気の入りようが違うと思うのは私だけではないはず。
スコットもいつにもまして稽古に励み、シフォンも普段は怠けているが、今のシフォンは真面目に働いています。
ただ、困ったことがあります。
それは皆がメル様を妹のように、娘のようにかわいがるものですから。甘やかしてしまうのではないかと言うことです。
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メル様が5才になりました。
誕生してから早5年。
辛いこともありましたが、それでもメル様は元気に育っております。
最近は花に興味を持たれたのか庭で遊んでいるようです。
私としては早くメル様に会いたいのですがそれは〈王国最強〉という肩書が許してはくれません。
そしてメル様に厳しく接する私はどうやらメル様に恐れられているようなのです……。
ふう。
仕方がないことだと思います。
思うに昔から子供の相手をするのが苦手でした。そして周りが甘やかす中、それではいけないと厳しく接したのが裏目に出たようです。
けれども、お嬢様なら理解してくれるだろうと信じています。
私はメル様のことを――メルのことを家族のように思っていることに。
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内乱は起き、混乱は続く一方です。
税は高まるばかりで国民は生きる為に武器を取ります。
王都の方も疑心暗鬼になり、国を二分する事態へとなりました。
王族側に付く貴族とそれに反対する貴族と国民です。
このままでは国が亡ぶのは明白。
ご乱心中の王をなだめる為に王都へと出発するトリスタン様ですが、その間に一つの条約、”交渉”するそうです。
その中に私も含まれていたのですが、私はトリスタン様の剣です。
故にその申し出は断ることにしました。
心配そうにメル様を見るトリスタン様は最後の別れを交わすようにメル様に言い聞かせます。
……内乱が終わればきっと元の生活に戻れるはずです。そして私たちはこれ以上の犠牲を出さないためにも王都に行かなくてはなりません。
――日記はここで終わっている。