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これからの予定

 陽が完全に落ちた時間であった。村には明かりというものはなく。闇を照らすのは綺麗な星々の明かりと松明の炎だけであった。


「むにゃむにゃ」


 二階で寝るのはベガとメル。寝息を立てるメルをベガは羨ましそうに見つめる。ベガが眠れないのはただ単純にまだ寝る時間ではないからだ。

 そんなベガは夜の星を観察していた。綺麗な星は驚きを与えるも、夜の静けさと星の柔らかな明かりが癒しを与えて――。


挿絵(By みてみん)


 虚しさと悲しさを感じていた。

 何とも言えない表情は今は解明できなことだが。

 確かに確実にベガは意識を鈍らせた。寂しさと少しの笑みを残したのは自分を嘲笑したからかメルの寝顔に幸せを感じたからか。はたまた疲れの前の本能に薄情を感じたか定かではないにしろ。朧に意識を手放そうとして。


「……」


 再び意識を覚醒させる。小さな音であったがそれは剣を抜く音。外は松明の明かりで徐々に明るく、それに比例して争いの声も大きくなる。

 ガバ!


「な、なにかあったんですか?」


 その騒がしさに目を覚ますメル。


「詳しいことは分からぬが、とりあえず下りてみよう」


 村の広場にいったメルとベガ。そのには、騎士と血にまみれた農民と冒険者がいた。未だに剣を抜いたまま硬直状態であるのは、剣を向けている冒険者が手負いであったからに他ならない。


「お嬢様、お下がりください」


 相手は怪我をしている。とは言っても武器を構えているのだ。

 注意されるメルであるが、その瞳は怪我をした冒険者に向けられていた。

 状況を察するに怪我の手当てをしに来たものの、そこには敵である貴族がいたと、いうところだろう。


「というわけじゃ。だからメルよ。行ってくるのじゃ」

「ええええ!」


 ベガに押し出されたメルはまんまと、冒険者の前に躍り出る。

 殺気に支配された瞳と剣がメルをにらみつける。


「お嬢様!」


 慌てるのは騎士たちであるが、それをベガが止める。


「一応、保険はかけてある。そうなんじゃろ?」


 ちらりとシフォンを見るベガ。それに対して睨むような視線を向けるのはシフォンであった。


「……メル様を危険にさらすような行為は慎んでもらいたいな」

「かかか。まあそう怒るな。今の現状を打破できるのはやはり、メルしかおらぬよ」


 視線を戻すベガとシフォン。


 現状は今のところ動いていない。

 けれども、メルは決意したように一歩一歩、冒険者に近づく。

 恐怖心が無いというわけではない。それでも、メルが歩みを進めるのは――。


「痛く、ないですか?」


 ピクリと反応する冒険者。


「痛い、ですよね」


 決意したメルは冒険者に向かっていく。剣を構えるが今のメルには眼中になかった。


「く、来るな!」


 乱暴に剣を振る冒険者、その剣はメルの頬を斬る。薄く血が流れるがメルの歩みは止まらない。


「私はあなたたちの優しさを信じます。ですから――」


 私の優しさを信じて下さい。




 真っ暗な夜、それを照らすのは無数の星々と炎の光であった。

 包帯を巻いている冒険者とメルたちの間には大きな机がある。質問するのは代表者のメルである。


「えっと、つまり冒険者ヴァルドさんはロレッカ山脈を越えてここに来たと」

「ああそうだ。王都から逃げる為にはここを通るしかなかったんだ」


 現在会議がされているのは村長の家で机には大きな地図がある。


「国を東西にわける大きな山脈。魔物も多くいるはずですが……」

「……多くの仲間が犠牲になった。100人いた人数が今や20人だ」


 彼らの国……リニエスタ王国は東西にわける大きな山脈と南に広がる森林地帯で構成されている。平原は極々限られた場所であるが、それでも国が発展するには十分な大きさであった。


「……国は方針を変えない。だから俺たちは反乱軍の本拠地、グッテンバルグに行くしかなかった」


 難民としてそこに庇護を求めるものは少なくない。他国に行くにしてもやはり関所を通らねばならず、ましてや人権のない世界である。不法入国するとなると命がけだ。

 だから彼らは手ぶらに近い状態であって。


「すまないが、一つお願いを聞いてくれないか?」

「何でしょう?」


 冒険者は申し訳なく。だけど真っ直ぐとメルの瞳を見て。

 提案する。


「山を越えるにあたって荷物がほとんどからになっちまった。だから……俺たちを雇わないか?」

「……なるほどです。私たちはそのかわりに食料を、ですよね?」


 メルたちにとって護衛など必要なかったが、それでも彼らを雇ったのは優しさ故であった。

 彼らとの話はこれで終わるかのように思えたが。


「それにしても、この戦争はいつまで続くのじゃろうか?」


 ベガの質問が響く。


「いつまでって、お嬢ちゃんこの戦争は停戦状態にあるんだぜ? そのうち終戦になることだって」

「あるわけなかろうに」


 ピキリと空気が固まる。終戦というのは彼らにとっての希望であり、平和である。それを否定されたのだ。

 誰もが願うそれをベガは真っ向から堂々と砕く。

 荒立った声で反論しようとした冒険者はすぐさま否定しようとして。


「王家と貴族に敵対する反乱軍じゃぞ。奴らが折れぬ限り、こちらも止まるわけにはいくまい」

「だから! 独立してこっちが新しい国をつくれば――」

「周りの国が許すと思うてか? 例え許したとしても東側が仮想敵国として停戦状態になるだけじゃろう」


 場が鎮まり、ベガの言葉が残酷に響く。

 炎が揺れ。

 ベガの横顔を照らす。


「答えを知りたいか? ならばグッテンバルグへ行くことじゃな」




「メル様、残念ながらあなたの要望にはおこたえできません」


 その声は低く、威厳と悲しみが籠っていた。グッテンバルグの支配者、そしてS級冒険者ソサエクスの言葉であった。



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