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日常になるノイズ

これでこの章は終わりです。

プロットが出来ていないのでしばらく投稿はできません。

次は閑話を書きたいと思います……。

未定ですが。

 塔の最上階に位置するその場所は少し高くなったお日様が顔をのぞいていた。

 鳥のさえずりが窓の近くから聞こえるが――


「むにゃむにゃ」


 少女が起きる気配はない。

 いつもよりも多く惰眠を貪るその少女は日に照らされた金髪を乱しながら幸せそうに眠っていた。

 それは誰もが起こすのを躊躇うほど幸せそうで、可愛らしいもの。

 大きなベッドで寝返りを打つ少女にサラリと何かが頬を撫でた。

 優しく、そっと。

 手のようなものが、ただ愛おしそうにメルの頬を撫でたのだ。


「お……母様?」

「残念じゃが、我はメルの母ではないぞ?」


 がば!


 赤面するメルは腹筋をする要領で上体を起こす。

 この言葉にさして深い意味はない。強いて理由を言うのならば寝ぼけた高校生が重たい瞼を擦りながら、先生に向かって母ちゃんというのと同じだ。


「え、えっと……」


 枕を抱いて頬を隠すメルは赤面しているのが分かる。

 ピコピコと動く耳は赤くなり、視線は狼狽えだす。

 それに対してベガはクスリと笑いながら――


「取りあえず、おはようじゃな」

「お、おはよう」


 扇子でベガは自分の口元を隠した。

 にやける口を必死に隠しながら、閉じた目はクツクツと笑う。


「さて、そろそろ会議室に来てはくれんか?」

「え?ま、まさか!」


 そしてメルは尋ねる。


「い、今はいつですか?」

「昼頃と言った方がいいかのぅ」

「な、何でそれを言ってくれないんですかーーー!」


 慌てるメルはすぐに支度をする。

 服が宙を舞う中、ベガは静かに部屋を退出するのであった。




「それでは定例会議を始めます」


 急いできたメルは少し自分の髪が気になるところであるが、広い部屋に集まった彼らを見て気を引き締める。

 円卓に座るのはそれぞれ特徴のある彼ら。

 今日の朝に帰ってきた商人と冒険者と昨夜帰ってきたメルの騎士団。

 少し太めでニコニコ笑う商人のヴァリエル。

 上品に目をつぶり思案に耽るオリエスタ。

 優しくメルに微笑む細身の男クゼン。


「騎士団の方も集まったよ?」


 優しく語り掛けるのはギリギリ椅子に座れたエルフ族のシフォン。

 赤髪の乙女レオジーナは心配そうにメルを見つめ、スレインは逆に心配なさそうに落ち着いた物腰をしている。


「それでは彼らの処遇も決まったのでしょうか?」


 尋ねるのはハーフエルフ種のシュタイヤであった。

 エルフ伝統の民族衣装を着ているシュタイヤは頬杖をつきながら優しく笑う。

 処遇を待つフランシスはごくりと固唾を飲みこんだ。


「ええ、それに関してはベガちゃんと話し合って決めました」

「その肝心の彼女が居ませんが?」

「……援軍に来たマルゼン辺境伯のおもてなしをしています。ですから、今は欠席とさせてもらいます」

「「「……」」」


 空席を見るヴァリエルとクゼン。

 鼻を鳴らすのはオリエスタ。


「ブタのご機嫌取りですか?」

「そう悪く言わないで下さい。マルゼン様は援軍で同盟者なのですから」

「情勢がこちらに傾き、美味しいところだけを取ろうとしている蝙蝠野郎でもですか?」

「?そうなのですか?」


 気付いていないのはメルだけであった。

 はあ、と溜息を吐くのは家臣である彼ら、笑うものもいれば心配そうに見つめる者もいる。

 そしてしびれを切らしたフランシスは席を立った。


「わ、私たちの処遇は……」

「あ、そういえばまだ話していませんでしたね」

「……」


 軽く答えるメルは皆から注目を浴びる。

 緊張感が走るのは一瞬。ある程度結果を察しているのはメルと付き合いの長い騎士団たち。

 上座の席に座るメルはクスリと笑い、決心したように紡ぐ。


「勿論保護します」


 沈黙がおり、シャンデリアの炎が揺れる。

 オリエスタはメルに対して鋭い眼光を向けるがメルの決心は揺るがない。


「フランシスさんたちは今回の戦で沢山の功績を上げました。そのことを加味しても――「私が聞きたいのは、これからも“続けるのか”ということです」……」


 今、行うのは簡単であるがこれを継続しようとなるとかなりの労力が必要になるのは誰が考えても理解できる。

 そしてそんなことがメルにできるのかという疑問も。


 けれども、いやメルにはできるのだ。

 その根拠と自信はたったの一つ。


「ベガちゃんが“出来る”といいました。ですから私はこれからも捕虜を保護し続けたいと思います」


 メルにとってはそれだけで十分なのだ。




「失礼します」


 執務室の大きな扉が開かれる。

 広くつくられたその部屋にいるのは一人の少女。

 足を組み、書類に目を通す彼女は笑いながら、防寒服を着たイナバを迎える。


「案内は終わったのですか?」

「今丁度じゃよ。マルゼン殿は客室でくつろいでおるわ」


 面白そうに鼻を鳴らすベガ。

 そして今、一枚の企画書を見ている。


「メル様は……勇者なのですか?」

「ふむ?分かったのか?」

「曖昧と……ですが……」


 自信がないイナバに対して、ベガは目を通していた書類を置きイナバを見る。


「説明せよ」

「じ、自信はないのです。でも……」


 ゴクリと唾をのむイナバはオドオドしながらも真っ直ぐにベガを見つめて――。


「勇者とは勇気ある者だと思っていました。も、勿論そういった意味もあります。ですが、それだけではないのです」

「……続けよ」


 確かめるような視線を向けるイナバに続けるように指示するベガ。

 それは肯定の意味があった。


「ゆ、勇者とは……真の勇者とは――


――勇気を与える者――


そう言った者だと思います」


 サアーっと部屋に爽やかな風が吹く。

 温かい日差しはそのまま窓から入り、のんびりと――神秘的な雰囲気を作る。


「ええ、やっぱりそうなんです。強大な敵に立ち向かうことは勇気ある行為であり、それだけで勇者と呼ばれる行為です。ですが……それでもその称号が一つしかないのはやはり、その勇気は一人のもので皆のものだからです」


 それはイナバの実体験であり、メルと共にいたから気付けたこと。

 最初自信がなかったイナバであるが、今ならはっきりと言葉にできる。

 メルは勇者であると。


「かかか、正解じゃ。正解じゃよ……!」

 

 嬉しそうに笑うベガは口を隠しながら上品に笑う。

 それは従者の成長を見られたからであり、メルを正当に評価していたから。


「となれば、メルを砦の管理者にする理由も分かるじゃろう?」

「は、はい!」


 戦争とは怖いものである。

 それは一般兵であれば当たり前の感情で理解できる感情。

 しかし、それでも戦わなくてはならないのが今の時代で定めである。

 故に。


「“勇気”が必要なのじゃよ。いや、この場合“英雄”かのう」

「……」


 イナバはベガがメルを砦の管理者にすることに納得する。

 だが、だからこそ一つの疑問が浮かぶ。

 それは頭にぱっと浮かんだことで、それは”もし”の話しだから。


「――では、だったらベガ様は英雄とs「失礼します」」


 二人の会話を邪魔したのは一人の女騎士。

 名を〈ジャンヌ〉。


「……邪魔だったでしょうか?」

「いや、丁度仕事に戻ろうとしていたところよ」


 構わないとベガはいい、イナバの会話は終わる。

 モヤモヤとした疑問を胸の内に残すイナバであるが、ベガの仕事を邪魔するわけにもいかず言葉を飲み込む。


「よかったのですか?」

「大丈夫です」


 〈ジャンヌ〉と短く会話をし、退出しようとしたイナバだったが――。


 パリン


「!」

「すまぬ、コップを落した」


 ベガがイナバの退出に合わせて紅茶を飲もうとしていたのだが、手が滑ったのかコップを落してしまったようだ。

 ただそれだけ、其れだけであったのだが。


「気にするな、イナバ。仕事に戻るがよい」

「は、はい」


 外に出るイナバは首を傾げながらもベガの指示に従った。

 部屋に残るはベガと〈ジャンヌ〉だけ。


「……大丈夫ですか?」

「かかか、心配は要らんよ」


 そう言って己の手を見るベガ――。


 その音は確かにイナバに聴こえたのだ。

 馴染みのない、いやこの世界に存在しないはずの音を。

 ただ、初めて聴いた音でありその音がする意味を理解できなかっただけだったのだ。



「“世界の拒絶反応”……か」


 ――ベガの手はラグが起きていた。

 凡そ理解できない現象であり、未だにノイズが走るそれはジジっと電子音を鳴らす。

 それは正しく、世界に拒絶された――チーターの証であった。





自分の中で一番苦手なキャラはベガです。


まあそれでも、世界から拒絶されるのは力を持ちすぎたからと彼女が異世界転移したからです。

アレルギー反応みたいなもので、彼らのことごとくが世界に拒絶されています。


それと一応書いておきますが、ベガもメルと同じくらいの才能を持つものです。

ですが、メルは勇気を持って戦うのに対してベガは全く違うもので戦います。


次はアウトロールを執筆したいと思います。

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